ロイド

文字数 1,034文字

 小さいときはわけが分からなかった。
 なぜ自分が泣いていると、妹も泣き出すのだろう。なぜ自分が怒り出すと、親の機嫌が悪くなるのだろう。なぜなんだろう。小さいときには、わけが分からなかった。
 少し成長して、どうやらこれは異常な能力らしい、ということを知った。友達の誰に聞いても、そのようなことはないと言われた。そんなことはない、と反論すると、殴られた。仲の良かった友達にも掴みかかられた。異常な能力であることに気が付いた。しかしそれを積極的に利用する術は思いつかなかった。感情を抑えることが重要であることを学んだ。
 学生寮は最悪だった。しかし両親は私を近くに置いておきたくなかったのだろう。私は悲しかったが、仕方のないことだと諦めた。両親は私以上に悲しんでいたが、それは私の能力によるものだと知っていた。両親の本当の心ではなかった。私が悲しめば、両親はもっと悲しむだけのことだった。私はついに、両親の本当の心を知ることなく、親元を離れることになったのだ。
 ルームメイトにはとても気を遣った。些細ないさかいが命取りだった。大げさではなく、実際に殺されかけたことも何度かあった。確実に、この能力は成長するに従ってその力を増してきていた。私は絶望していた。
 仕事になど就けるはずがなかった。人との関わりが薄い日雇いの仕事をして、何とか生きてきていた。しかしそんな生活はまっぴらだった。望んだわけでもない能力に振り回される生活は、もううんざりだった。死にたいと思った。切実に。死にたいと思った。死んだらどれだけ楽になれるだろうと私は考えた。死んだら。死んだら。
 ミラー一家が、私と家の前ですれ違った瞬間に、全員亡くなった。能力のせいだ、と私にはすぐに分かった。共感したのだ。死んだら、と考えていた私の感覚に。私は始めて、この能力の使い方を知った。
 恨みは幾らでもあった。怒りも幾らでも感じていた。しかしそれらを消し去って、私は自身を死人とした。そして能力を開放した。能力が開放できるなんて、今まで知らなかった。考えてもみなかったのだ。このように忌々しい能力をさらに拡大させようなどとは。しかし私にはそれを行なえるだけの力が、あった。私の感覚に共感する者は、私の周りだけに留まらなくなった。恐らく町全体、あるいはそれ以上にまで能力の有効範囲が拡大したことが分かった。私が死人であれば、世界も死人となる。すばらしいではないか。私は、生まれて初めて、この能力に感謝した。
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