第4話

文字数 728文字

運命の日がやって来た。

それぞれの研究室で育てたAIと本物の少年を一人ずつ隔離し、ディスプレイを通しての質疑応答で、AIか人間かを判定する。
朴羅野(ぼくらの)研修室の精鋭達は固唾を飲んで、我が子の面接を見守った。

結果は惨敗であった。  
隣野(となりの)研究室の育てたAIは合格。
見事、10歳の少年と判定された。

「好きな遊びは木登りって、有り得なくね?俺が教えてないからな」
部屋に戻ると、登呂井(とろい)が真っ先に沈黙を破った。
「敵は流行語もモバゲーも完璧だったな」
一波(ひとなみ)が悔しそうに唇を噛み締める。
「僕達のAIはなぜ、嘘を吐かなかったんだろう?」
賢伊(かしこい)は未だ頭を抱えている。
「あーあ、どこで育て方間違えたんだ?」
一波(ひとなみ)登呂井(とろい)の鞄を蹴り、アニメ画の絵本が床に飛び出す。

「…おい、登呂井(とろい)。この本は何だ?」
一波(ひとなみ)は絵本を手に取り、顔色を変える。
「何って、図書館で借りた『オオカミ少年』の絵本だよ。長いし絵が多いから画像をそのまま取り込んで……」
「狼少年……ケン?この本、違うぞ。裸でジャングルを駆け回る純真な少年が嘘なんて吐くか?」*1)
一波(ひとなみ)が拳をワナワナと握りしめる。

「いや……一波(ひとなみ)、これこそが息子に見せたい本だ。登呂井(とろい)は間違ってない……だよな?」
賢伊(かしこい)は痩せこけた頬を緩ませ、一波(ひとなみ)の肩を叩く。
「ちぇっ……まあ、そうだ……嘘吐きには育てたくないよな」
一波(ひとなみ)もフンと笑って、すっかりしょげた登呂井(とろい)の肩を引き寄せる。

「なあ。もう少し、育ててみないか?僕等の子供を……」
賢伊(かしこい)が提案する。

「おう、俺、アニメ見せてやるよ」
登呂井(とろい)が笑う。

三人の大きな笑い声を朴羅野(ぼくらの)教授は廊下で嬉しそうに聞いていた。



*1)1963/11/25~1965/8/16『狼少年ケン』NETテレビ、東映動画.(2017/3/25アクセス)







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