1−4:陰キャな僕の初積極(+未知)

文字数 2,072文字

 水平線に日が落ちはじめる頃、僕は再び峠へ向かった。通り過ぎる街もまだまだ賑わっている。峠にまともに駐められる場所はないだろう。「こちら」と「あちら」には時差がある。もう結果は出ているかもしれないけど、放ってはおけない。
 僕は、僕の知る限りの、「あちら」に行くための条件を満たす方法をとることにした。ハザード・ランプを点け、エンジンをかけたまま、峠の入口の土手ギリギリに車を停めた。これは賭けだ。うまく行ってくれよ。

 ……景色が歪み、ワープの中へ。そして、軽バン・イン・ザ・スペース。再び。

「おかえりなさい。Ff108」
「えっと、ご無事でしたか、
オペレーターさん」
先読みしたかのような僕の言葉に驚きながらも、オペレーターは情報を共有してくれた。プロの仕事だ。
「ええ、まだなんとか。しかし厳しい状況です。全AIコパイロット不在という、最悪のタイミングでの敵機襲来に防戦一方で。母艦は退避行動を取りながら、各機は防衛に専念していますが…」
傷を負った僚機たちが、次々と母艦に帰っていく姿が見える。そして、入れ替わるように出撃する応急処置が痛々しい僚機たちの姿も。
「AIコパイの動員許可が一向に下りなくて、単独戦闘の経験が少ないパイロットたちは操縦さえままならなくて、半数近くが戦闘不能になっています」
僕と、ティキが危惧していたとおりだった。そう、僕だけではなく、彼女も最悪の可能性を考えていた。だから、僕と彼女は準備していたのだ。こんなこともあろうか、と。僕はコントローラーを指し直し、カーナビのボタンをタッチした。ローディング・バーは数秒で充ちた。よし、再・最適化完了。これでゲームと同じ操作ができる。
「ありがとうございます。
状況了解しました。行きます」
僕はコントローラーで機体を加速させた。時間は限られている。急がなくては。

 母艦に一番近い敵機から順に撃破していく。コントローラーのスティクや各ボタンなどに割り当てた設定は良好だ。さっきの戦闘シミュレーションが役に立っている。シューティング・ゲームのベリー・ハードのサバイバルモードの周回プレイというね。
 でも、母艦の防衛と僚機のサポートしながらの戦闘は想定を越えていた。敵機を引き付けながらでは
「無被弾ってわけにはいかないか」
まだ飛べる。だけど確実にダメージは増えている。なんとか半分以上は墜としたけど。
「次もらったら、やばくなるな」
「ま、まもなく援軍が来てくれる。
それまで踏ん張れ、隊員ども」
トップ・エース様、こんな時に根拠のない根性論はやめてほしいな。
「援軍か。一番の援軍は…」
戦場では一瞬の弱気が命取りになる。敵機の高命中射程に捕まってしまった。振り切れない。
「ここまでか」
コントローラーを持つ力が緩む。

「オマカセ ヲ」
敵機の攻撃をギリギリで避けながら、自機は距離を離していく。
「オマタセ シマシタ アスト」
戦闘中なのに目頭が熱くなる。
「おかえり ティキ」
「カンドウ ノ サイカイ ハ
アト デス ノコリ イケマスカ」
「お任せを」
僚機たちも動きが変わった。
「者ども、俺に続けぇっ!!」
トップ・エース様もノリノリだ。

 そこからは一気に形勢が逆転し、戦闘は終了。母艦および兵器類の被害は大きく、重傷者も少なくないが、幸い死者は出なかった。負傷した艦長が痛みをおして、ベッドから全艦放送をする。強い責任感だ。
「みんな、我らが母艦をよくぞ守ってくれた。この戦いに尽力してくれた全ての者に対し、強く感謝する」
歓声と安堵で満たされる。

 僕も大きく深呼吸をする。
「よかった。これで偉い人たちやハード屋さんたちも、ティキたちの存在の重大さがわかったはずだ」
「ソウ デスネ」
窓外にワープ粒子が増え始める。
「もう少し話したいけど、限界かな。
またね、ティキ」
「タノシミニ シテイマス アスト」

 (此岸への)帰還ワープ。歪んだ景色が戻っていく。早く移動しないと、さすがに警察が……
「え? ここは?」
僕の軽バンは○○山中腹の神社入口前の駐車場に停まっていた。

 どういうことなんだ。これまでは駐停車状態で移動していたことはなかった。
 周りを見渡して、さらに僕は異変に気づいた。ニュース映像では、この駐車場はマスコミや配信者、野次馬たちでごった返していた。テントや出店まで出ていたはずだ。でも、元々あった物を除けば、僕と軽バン以外に誰もいない。何もない。あの状況から急に、みんながいなくなるとは思えない。
 UFO事件によくある神隠し? あれだけの人数と物をどうやって? グルグルと回る混乱と恐怖から、僕は車から降りるなんて考えられない。
 まずい。ここにいてはまずい気がする。エンジンをかけようとする。が、かからない。満タンにしていたはずのガソリンがない。急いで、スマホを持ち、ロードサービスに電話を。圏外だ。ここはアンテナが近いのに、ありえない。
 愛読しているオカルトサイトに書いてあった気がする。本当にこんな感じるなんだ。また、混乱と恐怖の向こう側に行けそうだ。僕と車はまぶしい光に包まれる。もう光以外、何も見えない。
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登場人物紹介

ティキ:AIコパイロット。主人公・明日人(アスト)のパートナー。自機の操縦を担当する。リンケージ・タイプ。

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