1−3:陰キャな僕の初戦果(追憶+)

文字数 1,871文字

 戦場は宇宙空間。こちらは1機。敵機は3機。偵察機のようだが戦闘装備もありそうだ。こちらの母艦を捕捉されるわけにはいかないし、自爆アタックされる可能性もある。ゆえに1機も逃せない。という状況だ。チュートリアルのない、いきなりのハードモードだ。

 操縦担当の美少女AIコパイロットは敵機を戦域から逃さないように飛行する。無駄のない最短距離で、八の字の軌道を描きながら。彼女の操縦技術の高さがわかる。流れで攻撃担当を任された僕は、彼女に自分の要望を伝える。
「時間差で発射した小型ミサイルで弾幕を作りながら、敵の動きを制限し、速いビームでの撃墜を狙いたいです」
「イイ サクセン デス
ワカリマシタ」
話が早くて助かる。僕は機体の動きに合わせて、まずは発射間隔を開けながら小型ミサイルを撃ち出した。うまい位置取りのおかげで、まず1機をミサイルそのもので撃墜。さらに、ミサイルをかすめてバランスを崩したもう1機をビームで撃破する。あと1機。順調だ。しかし隊長機だけあって、他2機より動きがよい。弾速の速いビームでもうまく当てられない。攻撃精度も高く、彼女の腕がなければ、とっくに被弾していただろう。
「アスト カノウ ナ カギリ
セッキン シテ チャンス ヲ
ツクリマス アワセテ クダサイ」
「わ、わかりました」
名前を呼ばれ、ドキッとしたおかげで弱気が吹き飛んだ。
「イキマス」
そしてさらに、彼女の決意ある表情に気が引き締まった。

 ここまでの敵の挙動データを元にしたとしても、やはり彼女の操縦は人間離れしていた。敵機の後ろに付き、トリッキーな動きに合わせながら、徐々に距離を詰めていく。僕も集中する。ミサイルは撃てない。反動で距離が開く上に、弾速が遅く当てられない。バルカンでは弱く、操縦と射線の邪魔になる。ビームしかない。発射後のタイムラグを最小にするため、貯め撃ちを狙う。チャンスは1回だ。

 その時が来た。トリガーを離す。爆散する敵機。なんとか撃墜できた。物理シールドを起動し、その破片の中を抜ける僕らの機体。
「ヨイシゴト デシタ
コノママ キカン シマス」
「ありがとうございます。
コパイさんのおかげです。
僕1人なら墜とされてました」
「ウイジン デ コノ セイカ ハ
スバラシイ デス」
「あ、いえ」
連日の失敗で落ち込んでいた僕にとって、彼女の言葉は救いだった。
「アスト ハンドル ヲ
オカエシ シマス 
マタ ゴイッショ シマショウ」
言われるがまま、ハンドルを握り直す。景色が再びワープの光になり、見慣れた峠の景色に戻る。いつの間にか、休憩所を通り過ぎていた。まだ余韻の残る僕の目を覚ますように、勝手にラジオが起動した。流れてきた曲は、僕が生まれる前に流行ったロックナンバーだった―――

 あの日、AIコパイロット・ティキがいなければ、僕は墜とされていた。それは間違いない。だから、今回の機体の不具合の原因が彼女たちにあるとは思えなかった。彼女は言葉を思い出す。
「ニンム カ パイロット ノ
セイゾン カ トイウ ジョウキョウ
ニ ナッタラ マヨワズ パイロット ノ
セイゾン ヲ センタク シマス」
大破した機体。生存したパイロット。AIコパイロットがパイロットの生存を最優先した結果。僕にはそう思えて仕方なかった。
「アナタ ハ ダイジョウブ デス
ワタシ ガ マモリマス」
僕にできることは何かないのかな。考えているうちに、峠を抜けていた。

 南部の街の様子も昨日までとは違っていた。ファミレスも満席で、店の外まで順番待ち。コンビニも弁当屋も満杯。食事も休憩もできそうにない。
 街外れの堤防まで来て、ようやく車を駐めることができた。僕の軽バンは簡単な車中泊もできるようにしてあり、飲み物や食料も備えていた。荷台に移動し、折りたたみテーブルを広げる。携帯湯沸かし器で沸かしたお湯をカップラーメンに注ぐ。バッグから昨日のコンビニ・オニギリと唐揚げの入ったタッパーを取り出す。
 手作りの台にタブレットをセットし、動画サイトを立ち上げる。カップラーメンの時間を気にしつつ、公式のニュース動画を再生した。

 配信者たちも含めると、1日でかなりの数が上がっているようだ。公式のニュース動画の再生後も、自動再生で次から次へと関連動画が流れていく。僕はそれをBGMにしながら、携帯ゲームを固定し、いつもの別コントローラーを手に、シューティング・ゲームを遊んだ。途中で、トイレ休憩と仮眠、海を眺めたりで4時間ほど堤防の駐車場で過ごした。
「そろそろ、行ってみようか」
手早く片付けて、僕はエンジンをかけた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ティキ:AIコパイロット。主人公・明日人(アスト)のパートナー。自機の操縦を担当する。リンケージ・タイプ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み