階段おどり場の鏡

文字数 1,701文字

 私が高校生だった頃、仲の良かった友人たちといっしょにオカルトにハマっていました。

 怖い話好きで暇を見つければネットや本で仕入れた都市伝説など色々な怪異のネタを探していました。その中で私は身近な自分の学校にある7つの噂を知りました。いわゆる学校の七不思議というやつです。

その一つに階段の鏡についてのはなしが在りました。階段の折り返しの途中の壁に鏡が付いている場所が在り、そこに時々霊が映ったり、自分の死に顔が見てしまうという話でした。私はそれが気になり、本当かどうか確かめたくなりました。

 ある日の放課後に、私は気まぐれにその鏡を見に行こうと思いました。

学校には幾つか階段が在りますが、その鏡があるのは校舎の奥ににある玄関口から一番遠い階段でした。その階段は他の階段に比べて利用者が少なく、学校の西には裏山と言われる小高い山になっていて木々が立ちはだかり、校舎の中でも日の光も届きにくい場所なので薄暗いイメージがありました。噂される鏡は壁に貼り付けられた全身が映る大きな物で、二階から三階階段の途中にありました。

 私はその鏡に近づいてもう一人の自分の顔を見ました。特に何もない普通の私の顔でした。私は舌を出して変顔をしてみると、鏡の中の自分ももちろん同じ顔を映し返していました。


我ながらバカらしい、と思って表情を戻し真顔に戻ったはずの顔は次第に変わっていました。


その変化はコマ送りしたかのように、あっという間で目が血走っていて口から泡を吹来ました。それは確かに私の顔でしたがその恐ろしい苦悶の表情よりも、現実の私と鏡の中の私がバラバラにされたような心理的な瑕疵にひたすら驚愕する私は思わず「ヒッ」と悲鳴を上げました。

 私は思わず階段を降りて必死に逃げ出しました。

 その後友人にその話をしたのですが、冷めた笑いを誘うだけでした。友人と鏡の前に立たせて見ても何も変わったことは起こらず悪い冗談にされ本気に聞いてくれる生徒はいませんでした。

私はそれ以来あの鏡の前を通らないようになりました。学校を卒業しても、エレベーターの中の全身の映る鏡や鏡面処理された美しいビルの窓ガラスの前などを通る時に、ふとあの時見た自分の顔が脳裏によみがることがあり、あの恐ろしい体験がフラッシュバックするのです。

 あの鏡に何が映っていたのか、あれは本当に霊だったのか、それとは別の何か妖怪のような存在だったか知りようがありません。

 卒業して数年経ったある日、偶然に私は母校に行く機会がありました。久しぶりに故郷に帰ってきた私は懐かしさから学校周辺を散歩していました。するとその日祝日だったにも関わらず学校では何かのイベントが催され校舎が解放されていて、たまたま一般人も校舎に入れる日だったのです。私は学校に入って玄関口まで来て足を止めました。

 あの時に見たものの正体を知りたい。というよりあれは現実のことだったのだろうか・・・。そんな気持ちに背中を押されるように校舎に入ると、私はあの鏡のある校舎の一番奥の階段を上っていきました。


 階段に私以外に人気なく、変わらず薄暗いばしょでした。二階と三階の間の中間地点に鏡がまだそこにありました。私の中で不安と興味とで揺れ動きました。あれから何が変わったのだろうか。いや何も変わっていない。今日この鏡には何が映るのだろう・・・?



 その時私はひとり疑心暗鬼に陥りながらも勇気を出して、鏡に映る踊り場に足を踏み入れました。鏡に近づくにつれて心臓がドキドキしました。そして鏡の中に目をやりました。

 すると底には歳を経た私が写っていて、何の変哲もないだたの普通の姿鏡でした。高校時代に思っていたほどの大きさもなく別に怖くもない印象でした。

 私はひとり鏡の中の自分に笑いかけ安堵しました。中学校という狭い世界に閉じ込められ思春期という思い込みの激しくも未熟な心が見せた幻覚だったのかもしれないと思いました。

 そして階段を降りて帰ろうとしました。

 そのとき数段降りている途中の私の背後から「フフフ」という声が聞こえました。

 私は急いで振り返り鏡の方を見上げました。そこには誰もいない鏡があるだけでした。
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