夕暮れ時の廊下に現れるテケテケ

文字数 1,729文字

 これは私が雛城高校の二年生だった時の話です。

 放課後に部活動を終えて時刻は午後五時半位だったと思います。私は美術室を出て誰もいない廊下を歩いていました。オレンジ色の西日が廊下に立ち並ぶ窓ガラスから差しこんでいて、床に黄金色と黒いかげの縞模様を作っていました。

そんなとき突然奇妙な音が聞こえてきたのです。

「テケ……テケ……」

私は突然の音に始め空耳かと思い立ち止まりました。するとはやりテケ、テケという変な音がもう一度確かに聞こえたのです。わたしは来た方に振り返りながら、音の源(みなもと)を探しました。すると信じられない光景が目に飛び込んでたのです。

私が歩いてきた廊下の後方10メートルくらいの距離に下半身がなく、腕だけで移動する上半身だけの姿がありました。それはセーラー服を着た女の子で廊下に這いつくばりながら私を無表情に見つめていました。

私は息をのむと同時に、頭の中で以前聞いたテケテケという妖怪か幽霊の名前がよぎりました。

あまりに突然のことで、私はあっけに取られて呆然と立ち尽くしていました。 すると彼女は見つめてニヤリと笑うと、急に動き出して想像以上のスピードを上げて近づいてきました。

私は目の前で起きていることが頭で理解できないまま体は恐怖で凍りそうでしたが、直感的に階段に向かって逃げることができました。テケテケは階段を上れないとかという噂を聞いたことがあったからです。

私は必死で走りましたが、上半身だけのテケテケもそれに負けない腕力では走れるようです。

「テケ……テケ……テケ‥‥」

後ろからその謎の擬音が近づいているのがわかりました。私は後ろを振り返ることなくダッシュしました。私は何とか階段に到達しまして踊り場まで駆け上がりそこから下へ振り返ると、テケテケは階段の下で私を睨んでいました。

息を付く間もなく私は階段をそのまま三階までに駆け上がって、そこから廊下の途中にある渡り廊下への扉を開けて外に出てみると、もうもとんど太陽が沈んでいて夜の帳が下りかかっていました。私はそのまま渡り廊下を急いで反対側の校舎へと抜けました。恐る恐る廊下の左右を確認してみましたが、そこには誰も居ません。もちろんテケテケの姿はありませんでした。

私は三階から階段を駆け下りて、昇降口で靴に履き替えずに、廊下の反対側の非常階段のある非常口から外に出ると、そのまま振り返ることなく学校から飛び出でました。

 

私は他にも子供のころからこういった不思議な体験を何度かしています。

学校といっても様々ありますが、その中でも高校という学校は飛びぬけて怪異が生まれやすいところだと思うのです。それはたぶん高校生の時期に、精神や心と呼ばれるものが一番成長し活性化するからだと思うのです。

例えば17歳の私がテケテケを目撃したという経験を今振り返って、本当に起きている現実だったのかと聞かれれば、幻なのか半分夢でも見ていたのだろうと言われれば、自分でも確実だということが出来ません。でも真偽よりも17歳の私がそれを見たという経験自体に何か意味がある気がするのです。

17歳の私は以降、夕暮れ時の学校では気を付ける様にしていました。そしてたまに背後から聞こえて来ることがありました。

「テケ……テケ……」

でも私はもう立ち止まることも、振り返ることもしませんでした。彼らはもともとそこにいる存在で、もとは人間だったのか元々怪異側の存在なのかそれは分かりませんが、振り返る事がなければ無害だとわかりました。


 
この体験を友人たちには話しませんでした。この話をすればそれが生徒の間に新たな噂となって広がる事は明らかで、同じような怪異に遭遇するする生徒が増えてしまう思ったからです。

怪異は何処にでもあり得ます。でも必ずしも悪意や害をなす存在ではないと思うのです。

もしあなたが高校生で、夕方の放課後の学校の校舎で一人歩いいる時に「テケテケ」という音が聞こえたときには振り返らない方がいいでしょう。でももし振り返って姿を見てしまったときは・・・・何も考えずに階段を上に上へと逃げてください・・・といいたいところですがその後私と同じとは限らないでしょう。どうなってしまうか知りたいなら振り返ってみてください。

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