第1話

文字数 823文字

「お父さん、ぼく見たんだよ。しまもよう!」
「え、何?縞模様。」
「そう、しましま。」

 俺は息子の啓太に連れられ、その縞模様があると言う場所に立っていた。大通りから一本入った裏道。通学路の標識が出ている。ビルの谷間で昼間でも薄暗い。それはアスファルトに刻まれた白い縞模様。随分と色あせてはいるけれど、通行量が少なかったせいか、しっかりとその模様を残している。頭を掻きながら俺は啓太に言う。
「これはね、横断歩道と言って、昔、人が道を渡る場所にその印をつけていたんだよ。」
「何それ、意味わかんない。」
「だから、昔は人が車を運転していたから、人が道路を横断する時に安全を確保するためにその通る道に印をつけたんだよ。」
「よけいわかんない。人が車を運転ってどういうこと。何でそんなことしてたの。」
「お父さんが子供の頃はみんな人が車を運転していたんだ。」
「人間が?ウソでしょ?」
「今みたいに人工知能が発達していなかったからね。それに機械に運転を任せる事に反発もあったし。」
 交通事故は年々減少していた。その一方でどうしようもない人的被害を残す事故も相変わらず続いていた。それはパニックによる操作ミスであったり、飲酒や寝不足による操作ミスが起こした事故だ。自動車の安全機能は日々進化し、とうとう人間が運転するよりも自動運転の方がましだという結論に達した。その日から道路上でヒトが車を操作することは無くなり、自動運転車とドローン車両、地下の高速チューブを通行する専用車両のみに収斂されて行った。
「人間が車を運転するって、それ包丁振り回しながら歩いてるのと同じじゃん。何そんな野蛮なことやってんの。ちょっと手を滑らしたり、目を離したりするだけですぐ歩行者跳ねちゃうんじゃない。」
「そうだよな、今考えると恐ろしい事を平気でやってたのかもな。ま、とにかくそんな時代だったってことさ。」
 道路に描かれたしまもようを眺めながら、俺は時代の変化の速さを今更のように痛感していた。
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