第22話 その前夜

文字数 2,264文字

 ケルビン王国軍は、東エデン帝国からの撤退を開始した。建前上は、各宗教界からの仲介、親族関係にある国々、つまり複数からの要請、仲介、そして東エデン帝国からの和平の提案があったため、そして、東エデン帝国帝都ケルビムにいる聖女テレサが偽聖女であると判明したため、兵を引いたことにしていた。実際、それらがあったのは事実ではある。それには、言を左右にして答えてはいなかったし、半ば無視するつもり、半ば撤回させるつもり、半ば東エデン帝国側を油断させ、おのれの態勢固め、軍の充実を図る時間稼ぎのつもりだった。
 が、ケルビン王国軍占領地のど真ん中に、突如東エデン帝国側の砦が出現した。しかも、最前線の補給路に脅威となる場所だった。何としても、一日も早く落としておかなければならない。投入可能な兵力を、すぐさま送った。が、その砦を作り、守っていたゾフィエル将軍以下、約3,000名の将兵は、その攻撃を持ちこたえただけではなく、ゾフィエルは、度々少数の騎兵を率い、ゲリラ戦を展開、ケルビン王国軍の補給路を叩いた。この動きも、ケルビン王国軍側は阻止することはできなかった。ゾフィエルは、縦横無尽に暴れまわったが、これは東エデン帝国の住民達のあらゆる側からの支援があったためである。
 この間、領土奪還を図る東エデン帝国側は、他方面での戦闘が片付いたこともあり、各地域の義勇軍、守備隊、貴族の軍、民兵、帝国軍に余裕ができ、また、ミカエル皇太子が駆け付けてきたことから、皇太子の手勢を核にして一軍にまとまり、進行を開始した。密かに、少しずつ攻城兵器を用意していたが、ケルビン王国軍側の時間稼ぎ戦略を、かえって利用して整えていたから、士気の高さ、住民の支持、支援を得ていたこともあり、ケルビン王国軍側の砦、拠点は次々に陥落していった。そして、ついに要のホワイト城を包囲した。ケルビン王国軍第一の猛将シャムセル以下5,000名が立てこもっていたが、包囲されて火砲、投石器の攻撃、魔法攻撃にさらされ、防戦に努めたものの、日々城壁は崩れ、櫓は倒壊し、食糧は残り少なくなっていった。各国、各勢力の協力や人心かく乱のためか、シャムセルを慕った周辺の農民達が危険を冒して、地下道から食糧を持ち込んでいるという話が、ケルビン王国軍側から発信された。実際は、一村の住民を丸々殺戮して入れ替わったケルビン王国軍将兵が農民を偽装し、ホワイト城への物資搬入地下道を作ろうとして発覚したものであったが。シャムセル達の奮戦ぶり、長く攻城側を苦しめ、多大な損害を与えたという話が発表されたが、攻城軍到達後、1週間で完全落城した。援軍約1万5千はなすすべもなく、数キロ先で陣を敷いただけであった。
「追撃して、壊滅させるべきではありませんでしたか、殿下?」
 将の一人が、恐る恐る言った。
 ホワイト城に入城し今後の対応が決定され、とりあえず休息をとっていた時だった。
「今は、勝利より和平だ。」
 ミカエルは、悩む顔だった。ホワイト城の攻防戦の最中に、ケルビン王国軍は交渉を持ち掛けてきた。1か月は持ちこたえることができると踏んでいた彼らの態度は、現実を前に後退し、ホワイト城のケルビン王国軍将兵捕虜の安全を保障を得ることと東エデン帝国領からの安全な撤収の約束を得ることで停戦を実現することでの同意となった。
「皆には不満でしょうね。」
 マリアも、その夜二人っきりになってからつぶやくように言った。侵略され、国土、国民の命、財産を蹂躙されて、賠償もなく撤収を許すのである。賠償問題などは、今後の和平条約交渉の課題になってくるが、彼らが応ずる可能性はない。しかし、ここで戦いを継続することは愚策でしかない。
「まずは、敵を減らすのが最良の策ですわ。私は、思います。カマエル大公と偽聖女に的を絞ることですわ、今大事なことは。」
 この停戦、和平を不満に思って、カマエル公側に転じる者がいることも覚悟しなければならなかったが、ここはかけるしかなかった。“とにかく、前世よりは、敵の数が減るもの!”マリアは、それだけは確信が持てた。
「ま、マリア!」
「ミカエル様!」
 不安を、ベットの上で固く抱き合うことでしか払拭できない二人だった。
 長い口付けが終わった後も、舌先を嘗めあってじゃれるようにしていた二人だったが、ミカエルはマリアを押し倒して、彼女の乳首に舌を這わせ始める。そうなるとマリアの喘ぎ声が聞こえてくる。彼の舌がその下に、両手が彼女の乳房を揉み、彼女の喘ぎが高まり、そのうちたまらなくなった二人は一体になり、激しく上になり、下になり、起き上がって対面になってひたすら動き、彼女が何度目かのけぞる姿勢を取ってから動かなくなった。仰向けに手をつなぎ息が荒いまま、並んで横たわる二人は、上をみながら、
「私達は、絶対勝つのですよ。」
「ああ、絶対に君を死なせない。」
「もう・・・ミカエル様も死んではいけませんよ。」
「有難う。マリア。」
 不満はかなり軍の中から出たが、幸いなことにそれほど多くはなかったし、それだからと言って離脱する者はいなかった。ケルビン王国軍の撤退を追うように、彼の軍を進み、奪われた地域を回復した。
 ミカエルは、その地の管理を任す、各勢力からなる委員会を設けた上で、シャムセルを臨時総督として、その管理下で全権を行使することを命じて、臨時首都にとって返した。しっかりと固めるべきとの考えもあったが、帝都攻防、奪還を優先する、カマエル大公の打倒を優先する必要性がより高いと判断したからだった。
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