不審者
文字数 618文字
相変わらず、家の中は暗く、静かだった。カーテンだけがゆらゆらと揺れている。彼女が居なくなったあの日以来、僕は窓を閉めることが出来なくなってしまった。窓を開けておくことで、彼女の帰宅を期待しているのだろうか。
彼女が自力で戻ってくることなど不可能なのに。
不意に花壇の方が気になった。窓を人が通り抜けられる大きさまで開け、庭に出た。しゃがみこみ、花壇の土を見て、固まった。
「足跡がある」
彼女が足跡を付けることは出来ない。先輩も花壇に足を踏み入れてはいない。先輩が帰宅した後、確認したから、間違いない。足跡は一つだけで、僕よりも少し小さかった。まるで家に入ろうとしているかのような向きだ。
僕はキッチンに行って、包丁を取り出し、彼女の部屋へ向かった。
音を立てないように、そっとドアノブに手をかける。少し扉を開けると、キーボードを叩く音が聞こえてきた。相手はパソコンを操作しているようだ。こちらに背を向けている今ならいけると思った。勢いよく扉を開け、パソコンに向かっている人物を見た。振り返ったその顔には赤い眼鏡がかかっていた。
「神田川さんの……旦那さん……」
真面目で、おとなしそうな人物に見えたのに、大胆なことをするものだと思った。
女は包丁を見て、一瞬たじろいだ。
「君が彼女を攫ったのか!」
「ま、待ってください、何のことですか!」
本当に理解していない様子だった。
僕は包丁を下ろし、怯えた目をした不審者の言い訳を聞くことにした。
彼女が自力で戻ってくることなど不可能なのに。
不意に花壇の方が気になった。窓を人が通り抜けられる大きさまで開け、庭に出た。しゃがみこみ、花壇の土を見て、固まった。
「足跡がある」
彼女が足跡を付けることは出来ない。先輩も花壇に足を踏み入れてはいない。先輩が帰宅した後、確認したから、間違いない。足跡は一つだけで、僕よりも少し小さかった。まるで家に入ろうとしているかのような向きだ。
僕はキッチンに行って、包丁を取り出し、彼女の部屋へ向かった。
音を立てないように、そっとドアノブに手をかける。少し扉を開けると、キーボードを叩く音が聞こえてきた。相手はパソコンを操作しているようだ。こちらに背を向けている今ならいけると思った。勢いよく扉を開け、パソコンに向かっている人物を見た。振り返ったその顔には赤い眼鏡がかかっていた。
「神田川さんの……旦那さん……」
真面目で、おとなしそうな人物に見えたのに、大胆なことをするものだと思った。
女は包丁を見て、一瞬たじろいだ。
「君が彼女を攫ったのか!」
「ま、待ってください、何のことですか!」
本当に理解していない様子だった。
僕は包丁を下ろし、怯えた目をした不審者の言い訳を聞くことにした。