隠れる。ただそれだけ。

文字数 736文字

大学の空きコマ、体育館裏の喫煙所。
いつものこの時間、暇人はもっと多い。

俺は暇な時間を癒せる場所を求めていた。
心のオアシスに入ろうとしたら、聞き覚えしかない2人の声が聞こえた。

えぇ、、、ちょっと待ってよ。
いちゃつくの…やめてもらっていいですか?

俺の脳にそんな言葉が浮かんだ。

未来と宙(そら)は軽音楽サークルの後輩。

その2人が…デキてる?

確かにその節はあった。
いつも一緒にいる二人、周りから見てもお似合いのカップルだと思った。

でも、諦めきれなかった。

そう言えば、とずっと前の事を思い出す。

新入生歓迎会を兼ねたサークル合宿。
その場所で、俺はいつも盛り上げ担当だった。
皆が楽しんでくれればいい。
ただそれだけだった。

そして今日も飲み、飲ませる。
これが正解なんだ。
そう自分に言い聞かせて。

…あぁ、疲れた。
…心のオアシス、喫煙所に向かう。

「宇宙人って、いると思う?」
未来の声だ。一緒にいるのは…宙かな。

未来は見かけによらず、沢山のことを考えている。
俺に無いものを持っている。
ずっと羨ましかった。
…ずっと前から欲しいと思っていた。

宇宙人がいたら、未来みたいな奴なんだろう。何を考えているか分からない奴。

でも何を考えてるのかは、知りたいなぁ。

どんな事をされるか分からないから、
隠れてしまうかもしれないけど。

そんな事を思い出した。
喫煙所を仕切るブルーシート越しに、2人の会話を盗み聞く。

「こっち見てよ」
未来の声が聞こえる。

やめてくれ。
頼むから、それ以上は…言わないでくれ。

「…嫌だったら、言ってくださいね」
宙、お前はもう黙れ。
何をしようとしているんだ。

風が止む。世界から音が無くなり、
2人のタバコが燃える音だけが残った。

「…宇宙人って、いると思う?」

そんな俺は、今も隠れているだけ。

ー 終 ー
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