宇宙と火種、僕と彼女。

文字数 779文字

「火、無いから貸してくれる?」

1つ上の未来(みく)先輩はそう言った。
誰もいない喫煙所。

僕は少しドキドキしていた。

金髪ギャルでボブカット。
いかにも節操のなさそうな容姿。
同じサークルじゃなかったら、きっと話をすることはなかっただろう。

彼女とは、勢いで入った軽音楽サークルの合宿で初めて話をした。

「宇宙人って、いると思う?」

僕は悩み、それを隠すように苦笑いをした。

「私はね、いると思う。地球みたいな星が宇宙には沢山あって。まだ出会って無いだけだと思う」

見た目とは裏腹に、説得力があった。
そして的確に言語化した彼女を見直した。

あぁそうか。
その時から僕は彼女に恋をしていたんだ。

体育館裏、粗雑な喫煙ブース。
その事を思い出しながら、自分のタバコに火をつけた。彼女のタバコにライターを近づける。

「ねぇ」

「えっ、火…」

「気づいていないの?」

「…なにがですか?」

何か粗相をしたのだろうか。
不安に襲われる僕を置いて、彼女はタバコを咥えた。そして俯きながら僕に言う。

「こっち見て」

「…はい」

見つめ合う時間。
ほんの数秒が永遠に続けばいいと思った。

「…なんですか?」

「…いや、ここまでしてまだ分からないかって思ってさ」

咥えたタバコの細々とした煙が僕らを遮る。

「もういいよ。ごめんね」

薄々は気づいていた。
そして無性に腹が立った。
行く宛の無い心の情熱に。

「火、早くつけてよ」

少し悩み、俯く僕。
タバコが徐々に燃え尽きようとしている。

僕は顔を上げた。苦笑いはない。

「…嫌だったら、言ってくださいね」

「…うん」

躊躇う気持ちを振り払い、彼女の顔に近づく。

僕と彼女のタバコが触れ合う。できた小さな火種。
少しずつ、ゆっくり、確実に大きくなっていく。

恍惚とした表情の彼女。
僕はますます、貴女の事を知りたいと感じてしまった。

「…宇宙人っていると思う?」

「…きっと、もう出会っていると思いますよ」

ー 終 ー
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