第3話

文字数 565文字

幼稚園の頃は無邪気に過ごせた。
母親の仕事の都合で市街地の幼稚園に通わされた為、みんな僕らの生活環境なんて知らなかったし、仮にそうでなくてもまだあまりに幼かったから。
母親はブラザーミシンの営業所から、自転車でセールスに出ている様で、僕は幼稚園からそこの託児所まで歩き、そこの先生と遊んで母親が仕事を終えるのを待った。
関先生。
眼鏡を掛けた優しいおばさんだった。
良く駄菓子屋に連れて行ってくれた。
紐を引っ張る飴。
ザラメを、まぶした。
何色が出るか?
楽しかった。
殊更美味しかった。
母親のセールスは奮わず、良く会社の製品を買わされていた様だ。
電子レンジ。
当時、まだ普及しきってなかった先端の機器が、貧乏長屋に似つかわしくなく鎮座した。
電話も、車もなく、電話はお向かいさんに借り、父親はスーパーカブで仕事に通っていたのに。
その電子レンジには、分厚いレシピ集が付属していて、それが僕の読書癖のもとになったのかもしれない。
家の冷蔵庫は空っぽ。
父親が、酒のツマミにする雪印チーズ。
これをくすねる為、僕は包丁を使い、証拠隠滅の為に洗ってもとに戻す事を覚えた。
厚切りのチーズに、アジシオをたくさん付けて食うとうまい事を知った。
そして、どれも材料が足りないレシピの中から、ベッコウ飴を選びだした。
砂糖と水。
アルミホイル。
それらは、貧しいうちにもあったから。
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