辻沢のヴァンパイア

文字数 2,992文字

辻沢は戦国の世よりヴァンパイアが住み着いています。ただそれは極めてらしくないヴァンパイアです。

○始祖のヴァンパイアについて
 辻沢ヴァンパイアの始祖と言われているのは宮木野と志野婦(与一)の双子の姉弟です。二人の出生については、
『辻女レイカーズ』という作品で、宮木野自身が語る場面がありますので、それを読みやすくして紹介します。
「戦国の世のことです。
宮木野という遊女は身請けされて安穏に暮らしていました。
 ところが夫が長く留守にしていたある日、遊女宮木野は戦乱に乗じて暴れまわっていたヴァンパイアに殺され、村人の手によって山椒の木のもとに埋められました。
夫は客死したのか、二度と戻ることはありませんでした。
 それを知って不憫に思った高倉氏が、遊女宮木野を供養しようと山椒の木のもとを掘り返したところ、遊女宮木野の遺体は生きたままの姿をしており傍で双子の赤子が泣いていたといいます。
高倉氏は遊女宮木野の亡骸を地元の辻沢に運び墓を建て埋葬し、双子の姉弟を養子に迎えて育て始めますが、双子は何も口にしようとしません。
ですが双子はいつも穏やかで腹を空かしているようには見えませんでした。
不思議に思っていた高倉氏は、ある日、寝かせておいた双子のところに夜遅くに何者かが忍んでやって来ていることに気づきます。
 訝しく思ってその者の後をつけると、墓場に入っていくではありませんか。
そして遊女宮木野の墓の前まで来るとその者は忽然と姿を消してしまいました。
 これはと思った高倉氏が墓を掘り返すと
棺桶の中には遊女宮木野が美しいままの姿で眠るようにしていて、
おおきく張った胸からは乳が垂れていたといいます。
双子の姉弟が何も口にしないのにお腹を空かせていなかったのは、屍人となった遊女宮木野が墓を抜け出して乳を飲ませにきていたからだったのです。
 町役場の銅像になっているのがその遊女宮木野で、双子の姉が母の名を継いだ私、宮木野、弟が志野婦の与一です」 
 双子の姉弟はヴァンパイアの因子を持ち、成人してから覚醒してヴァンパイアになりました。
 そして、母宮木野は500年以上経った今も青墓のどこかで乳を垂らし続けていると言われています。母宮木野の乳から造られるのが辻沢醍醐という飲料です。辻沢ヴァンパイアにとっては血液以上に命の雫です。主要なヴァンパイアには何者かの手でペットボトルや牛乳瓶で配達されます。

○弱点について
・辻っ子の間では、弱点は山椒とスギコギの唄だと言われています。
しかし、辻沢のヴァンパイアにとって山椒は、ネコのマタタビ的な作用をするだけでダメージを与えるわけではありません。スギコギの唄は正式にはスリコギの唄と言って、スリコギでゴマすりをする時に歌う歌謡でした。そのスリコギが山椒の木を使うためヴァンパイアに少なからずの影響があるのであって、唄自体には何の効果も無いようです。
・太陽光なんてへっちゃらです。基本的に夜行性なので夜を好みますが、太陽光に対しては耐性があります。
・十字架とかニンニクとかw。でも銀はどうやら効くようです。
 銀でコーティングした水平リーベ棒、山椒の古木で作った黒木刀は有効な武器です。
・心臓を串刺しにしても動きは鈍りますが死にません。脳天への攻撃が最も効果的のようです。首の切断、寝首を匕くのは言わずもがなです。
 
 これらの弱点は劣化ヴァンパイアである屍人や蛭人間にも当てはまりますが、ヴァンパイアよりはかなり弱いです。

〇感染しません。
 噛みつかれてもヴァンパイアにはならず、吸血の結果死んだ場合のみ吸血ゾンビになります。
 吸血ゾンビに噛まれても同じです。吸血ゾンビを量産しません。吸血されすぎて死ぬ場合がありますが、それは単に出血死しただけです。
 では始祖の宮木野と与一はどうして因子を持っていたか。それはおそらく母親がヴァンパイアに襲われたときお腹の中にいたから襲撃主の因子を受け継ぐことになったのだと思われます。科学的な解明はなされていません。

〇因子が遺伝して、その因子が刺激されて覚醒しヴァンパイアに成ります。
 辻沢では、女子の双子の場合どちらかが覚醒してヴァンパイアになると言われています。双子の女子の乳犬歯を折るという風習はこれに由来します。
 しかし実際は男女の双子の場合は双方が、男子のみの双子の場合もどちらかが覚醒することがあります。
 これは昔、宮木野が血筋を絶やされることを恐れて男子のヴァンパイアを秘匿したため、女子だけがヴァンパイアになるという誤解が伝播した結果です。
 後年宮木野は男子のみを守り、結果多くの女子を犠牲にしてしまったことをとても後悔しています。

(2022/10/10 追記)
以上の設定にはヴァンパイアとしての矛盾が存在します。
それは「死せる存在が生殖して子孫を残せる」ということです。
ヴァンパイアが死なないのはヴァンパイアになった時点で老化(成長)しないからですが、
ならばヴァンパイアの彼らはその体で命をはぐくむこともできないはずなのです。
では、どうしてなのか? 何故彼らは子孫が残せるのか?
それは、次回作『ボクらは庭師になりたかった』(仮名)で解答しようと思います。
(ここまで)

〇ヴァンパイアが正体を現す時、個体特有の匂いを発します。
 宮木野は山椒の香りを発しています。宮木野に近い者も同様です。
 弟の与一はクチナシです。他にもニセアカシアの匂い、腐った菜っ葉の匂い、古本屋さんの匂い等、個体差があります。
 吸血ゾンビは常時個体特有の匂いを発しています(ここから吸血ゾンビはヴァンパイアのなりそこないと見ることができます)。

〇覚醒したてのヴァンパイアは蘊蓄げっぷをします。
 ヴァンパイアの因子を持つ者は、血液を大量摂取するか浴びるかすると覚醒します。その時血液から多くの情報を受け取り真のヴァンパイアとなる糧としますが、赤ちゃんのゲップと同じで、余分な(Wikipediaに書いてあるような)情報は、おっさん声で蘊蓄を語ることで吐き出されます。それは当人の意思に反して所嫌わずに出るのでとても疎まれています。
これを辻沢のヴァンパイアの間で「蘊蓄げっぷ」と言っています。



●らしくないヴァンパイアにした理由。
 ヴァンパイアが太陽光に弱いという設定は古来よりマストでしたが、そんな脆弱な生物が地球で生きていけるわけないというのが私の考えです。もし存在してたとしても一生地中で過ごすようなワーム的な生物で、目も無く、人の形をしてる必要もないと考えます。(もとはそうで、ひょんなことから人間に感染したため、以降おかしなことになっているというのが通例のヴァンパイアなのかなと思っています)
 太陽に弱いとするのは十字架以上にキリスト教的な神への諂いです。その点を踏まえて太陽光に対する耐性はこの国のヴァンパイアには必須だと思ったのです。
 また、この国に長く生息するヴァンパイアならば独特な進化を遂げててよいと思うからでもあります。日本ミツバチだけがオオスズメバチを蜂球で熱殺するようにです。
 何よりも、夜陰に紛れて血をすするような儚い生き物では無く、血に縛られはしても社会の中で強く生きるヴァンパイアを描きたいと思いました。


以上で辻沢のヴァンパイアについて説明しました。ここに書かれていることは、『辻女レイカーズ』の内容からの抜粋になります。
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