(二)散歩

文字数 469文字

 権三郎に言われたように、沙也加はサファイアに首輪を付け、リードで操りながら散歩に出掛けた。
 時は春、街道には桜吹雪が舞っている。しかし沙也加はスマホに夢中で、のろのろ歩き。桜になんぞ興味もなく、サファイアが何をしようとお構いなし。
 一方サファイアは、初めて観る日本の風景に興味津々。何しろ生まれた国イランから大型船で日本に来て以来、ずっとペットショップの窮屈なガラス張りの部屋に、閉じ込められていたから。

 沙也加は近所の南青山公園に入り、ベンチに座って、やっぱりスマホに夢中。サファイアなど眼中になし。サファイアは、公園の様子を眺める。桜吹雪、菜の花畑、足元にはタンポポ……。
「わあ、かわいい」
 子どもたちが、サファイアに寄って来る。
「お姉さん。頭なでなで、して良いですか?」
 子どもたちに問われた沙也加は、面倒臭そうに答える。
「いいわよ。でも、傷とか付けないでね」
 しかし当のサファイアは、子どもたちの前でもツンツンとお高くとまっていて、かわいげがない。
 わたしは、100万円する猫なのよ!気安く、近付かないでよ。そんな気持ちである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み