(六)ふるさと
文字数 780文字
「サファイアは、何処で生まれたの?」
「わたしはイランっていう、とても遠い国で生まれたの。でも生まれて直ぐに、船で日本に連れて来られたから、何にも覚えてない。唯一、思い出すのは……」
「なに?」
「青い、青い、ペルシャ湾の海……」
寂しげに目を瞑るサファイア。
「海かあ、懐かしいなあ。俺も、海のそばで生まれたんだよ」
「あら、トラ吉さんも?」
「うん。気仙沼っていう、しけた港町だけどね」
「そこは、どんな海だったの?」
「俺の海はね、三陸海岸っていう、冬はとっても寒くて、波が荒々しいところだったなあ。波の音を子守唄にして、いつも眠ったもんさ」
「その気仙沼って、ここから近いの?」
トラ吉は、かぶりを振った。
「ううん、とっても遠いよ」
「じゃ、トラ吉さんは、どうやって東京まで来たの?船?」
またかぶりを振って、トラ吉は答えた。
「車で連れて来られた。その日、東京から遊びに来た親子がいてね。子どもが、俺を家に連れて帰りたいって、駄々こねて。それで俺は無理矢理、車に乗せられたんだ」
「まあ」
「でも俺は、途中で車から飛び降りて、逃げ出した。でももう東京まで来ていて、気仙沼には帰れなかった。だからその時からずっと、ここで暮らして来たのさ」
「そうだったの。大変だったのね」
「でもサファイアの方が、もっと辛かったろ?生まれて直ぐに、こんな知らない国に、連れて来られたんだから」
「うん。でももう平気。それよか、トラ吉さん」
サファイアはじっと、トラ吉を見つめた。
「なあに?」
サファイアに見つめられ、照れ臭そうなトラ吉。サファイアは、顔をまっ赤にして答えた。
「わたし、気仙沼に行ってみたい」
「えっ、どうして?東京と違って、田舎だよ」
「でも……」
本当は正直に、サファイアは答えたかった。
だって、大好きなあなたの、ふるさとに行ってみたいんだもん……。
でも俯くだけのサファイアだった。
「わたしはイランっていう、とても遠い国で生まれたの。でも生まれて直ぐに、船で日本に連れて来られたから、何にも覚えてない。唯一、思い出すのは……」
「なに?」
「青い、青い、ペルシャ湾の海……」
寂しげに目を瞑るサファイア。
「海かあ、懐かしいなあ。俺も、海のそばで生まれたんだよ」
「あら、トラ吉さんも?」
「うん。気仙沼っていう、しけた港町だけどね」
「そこは、どんな海だったの?」
「俺の海はね、三陸海岸っていう、冬はとっても寒くて、波が荒々しいところだったなあ。波の音を子守唄にして、いつも眠ったもんさ」
「その気仙沼って、ここから近いの?」
トラ吉は、かぶりを振った。
「ううん、とっても遠いよ」
「じゃ、トラ吉さんは、どうやって東京まで来たの?船?」
またかぶりを振って、トラ吉は答えた。
「車で連れて来られた。その日、東京から遊びに来た親子がいてね。子どもが、俺を家に連れて帰りたいって、駄々こねて。それで俺は無理矢理、車に乗せられたんだ」
「まあ」
「でも俺は、途中で車から飛び降りて、逃げ出した。でももう東京まで来ていて、気仙沼には帰れなかった。だからその時からずっと、ここで暮らして来たのさ」
「そうだったの。大変だったのね」
「でもサファイアの方が、もっと辛かったろ?生まれて直ぐに、こんな知らない国に、連れて来られたんだから」
「うん。でももう平気。それよか、トラ吉さん」
サファイアはじっと、トラ吉を見つめた。
「なあに?」
サファイアに見つめられ、照れ臭そうなトラ吉。サファイアは、顔をまっ赤にして答えた。
「わたし、気仙沼に行ってみたい」
「えっ、どうして?東京と違って、田舎だよ」
「でも……」
本当は正直に、サファイアは答えたかった。
だって、大好きなあなたの、ふるさとに行ってみたいんだもん……。
でも俯くだけのサファイアだった。
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