(七)政略結婚

文字数 906文字

 トラ吉を一途に慕うサファイア。しかし野良猫と付き合うなど、あのドケチの権三郎が許す筈がない。それ所か、権三郎はサファイアで一儲けしようと企んでいたのである。所謂、政略結婚というやつ。同じペルシャ猫のオスと結婚させ、サファイアにぼんぼんペルシャの仔猫を産ませる。そして仔猫たちを金持ち相手に、100万円で売ろうという魂胆。なんて悪どい奴だ、権三郎、恐るべし。

 季節は既に秋から冬へ。寒い季節の到来である。
 沙也加はそれでもサファイアを、散歩に連れて行った。しかし公園のベンチに座ってスマホをいじるなんて、とても寒くて無理。そこで冬の間は公園はスルーして、町内を一回りしたら、さっさと家に戻った。そして家の中で、沙也加はスマホ。サファイアはトラ吉に会えず、寂しい思いをしていた。
 ところが或る日、権三郎が家に一匹のペルシャ猫を連れて来た。金持ち仲間の家で飼っているオス猫で、名を『ビル』と言った。
 ビルはサファイアを一目見るなり、気に入って雄叫びを上げた。
「ニャーオウ!」
 それを見た権三郎は満足顔。
「よし、決まりだな」
 戸惑うサファイアに近付き、ニヤニヤしながらビルが言った。
「サファイア。今日からきみは、俺のフィアンセだ。よろしくな」
「フィアンセ?何、それ。わたし、あんたみたいなツンツンお高くとまった猫なんか、大嫌い!冗談止めてよ」
 よく言うよ、サファイア……。
「それがちっとも、冗談じゃないのさ。これは人間たちが決めたこと。やつら、きみにペルシャ猫の子どもをたくさん産ませて、金儲けしたいらしい」
「うっそー!わたしは、仔猫製造機じゃないわ。人、じゃない猫をバカにして。兎に角あんたなんかとは、絶対結婚なんてしないから」
「ま、好きにしなよ。結婚式は暖かくなった三月だそうだ。じゃね」
 ビルも権三郎もいなくなると、サファイアは沙也加に甘えていった。ビルが言ったことが、本当なのか確かめる為。
「ニャーーン」
 でも沙也加は申し訳なさそうな顔で、サファイアに告げた。
「ごめんね、サファイア。パパが決めた事だから、わたしにはどうにもなんないの。許して」
 そんな……。
 ショックの余り、気絶しそうになるサファイアだった。
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