5 専制主義と民主主義

文字数 1,607文字

 この作品では、専制主義の帝国と、民主主義の同盟の戦いが描かれていますが、果たしてどちらが〝正しかった〟のでしょうか? そんな疑問も、『人的資源』や『社会工学』 について考えるきっかけを与えてくれました。

 私見では、文明が発達するほど、あるいは発展を続けるためにも、制度・政策は民主化していくしかないと考えます。これは恐ろしいことに理想や主義の問題でなく、技術的な理由だけでも、そうなってしまうのではないかと思います。

 科学・技術が発達するほど、経済・社会活動は拡大し、複雑化・加速化していきます。また、人々の生活水準は向上する一方、労働は省力化されて、どうすべきか考える以外の仕事はなくなっていきます。ゆえに、より多くの人々が制度・政策の立案・実施や点検・改善に関わることができるし、またそうしてゆかねば遊民だけが増え、様々な問題を上手く解決して、社会を健全に保ち続けることができないだろうと思います。

 そのため長期的に見れば、文明が発展するほど、人的資源を向上させたうえで、制度・政策の高度化や、大規模化と分権化は進んでゆくはずです。現在まで主権国家の発展や国際化が進む一方、政治的民主化や経済的自由化、三権分立や地方自治などが進展してきたのも、それゆえでしょう。



 ただし、その道のりは平坦なものではありませんでした。例えばかつて米国は国際連盟を提唱しましたが、議会の反対で自らは加入できず、また先進的なワイマール憲法体制からは、ヒトラーが生まれてしまいました。その後の発展が実現するには、第二次世界大戦の惨禍を経なければならなかったのです。『銀河英雄伝説』でも、旧帝国の圧政と堕落の末にラインハルトの治世が訪れたのであり、同盟の腐敗と失政を経なければユリアンの功績は輝きませんでした。

 この名作を読んで私は、そうした曲折(きょくせつ)の原因は、文明発展に伴う人間自身の教育・健康水準の低下や向上不足と、それを是正する淘汰(とうた)の過程にあるのではないかと考えました。ルドルフへの支持は圧政や虐殺を招き、同盟の政治腐敗と衆愚化は敗戦をもたらして、それを許してしまった人々に大変な犠牲を()いたからです。

 そう、この分権化の潮流には『文明が発展する限り』という条件がついています。恐ろしいことですが、歴史が示してきたように、文明は衰退することもあるのです。

 個人の発達と同様に、文明の発展にも適度な自然・社会環境上の負荷と恩恵が必要なのではないかと考えます。例えば星間国家における惑星間の距離は、自然環境的な負荷といえます。この作品にも〝距離の暴虐〟という歴史的な用語が出てきます。実際上の統治が行き渡らぬがゆえに、政策的な統制を強めねばならないこともありましょう。他方、治安の悪化や他国との戦争は社会環境的な負荷といえます。

 もっとも自然環境と社会環境の負荷には、相互作用の関係もあります。そのことは英国や米国のように、その時代の技術水準からみて適度な規模の島嶼(とうしょ)国家や大陸国家が、先進的な政策の採用に成功し、世界を先導(リード)してきたことにも表れています。私は今後、技術のさらなる進歩によって、世界がひとつの〝国〟として、栄えてゆけたらと願っています。

 教育・健康水準の低下や向上不足は社会環境的要因といえますが、今では技術的に克服すべき〝内なる自然〟環境上の要因といえるかもしれません。私は少子超高齢化の危機も、それを適度な負荷として克服できる技術を開発・活用できれば、むしろ新たな文明発展の機会にできるのではないかと期待しています。

 そして、そのような文明の発展を前提とする限り、制度・政策の高度化や、巨大化・分権化の同時進行は必然の潮流であろうと思います。
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