6 犠牲なき発展のために

文字数 1,305文字

 『銀河英雄伝説』は、人々が文明発展に応じた人的資源の向上と、社会工学的技術を含む技術の善用、政策自体を含む経済・社会活動の健全性保持に失敗した世界の物語だと思います。もっとも、何の問題もない世界を描いても、物語にはなりにくい気もしますが……。

 しかし現実の世界では、そういうことがあっては困るので、どうしたら良いかも考えてみました。例えば人間には学習能力もあるので、そうした現象についての知識が普及すれば、少しずつでも犠牲を減らしていくことができるのではないでしょうか。条件が同様なら、戦争でも革命でも回を重ねるごとに、非人道的兵器の使用が抑えられたり、流血が減ったりしていく傾向があるようです。

 知識の普及と言えば個人的な経験からの学習だけでなく、もちろん学校や社会における教育も重要です。加えて、まさにこの『銀河英雄伝説』のような文化的作品も、そのような役割を果たしているのではないかと思います。

 さらに現在では、人道的な手段で人的資質を維持・向上させられる、新しい技術も現れつつあります。それは、AI(人工知能)を中心として、従来型の文明の産物を、体内環境を含む自然環境や社会環境と親和化させることで文明の持続可能性を高める、〝環境親和技術〟と呼びうる技術です。そこには新素材・新エネルギーや知能ロボット、IoT(インターネット・オブ・シングス)などと共に、遺伝子治療・再生医療やAIを活用した教育など、先進的な医療・教育も含まれます。



 また、政策の重心にも変化がみられるようです。農業~工業技術の時代には、富の生産や確保に関わる灌漑や軍事など、技術的政策が中心でした。工業~情報技術の時代には、富の再投資や再分配に関わる産業政策や社会保障など、経済・社会政策の割合が増えました。そして情報~人工知能時代の現代には、先進国の少子高齢化や途上国の人口問題を背景として、富を作って分ける人間自身の向上に関わる保健や教育など、人的資源政策が重要になりつつあるようです。

 それは戦争や災害、疫病などの淘汰による犠牲や損失(ロス)費用(コスト)危険(リスク)をなくしつつ、人的資源の向上を図り、文明の発展を図っていこうとする政策です。そうした考えは、近年の国連の政策における『誰一人取り残さない』という標語や、『人間の安全保障』という言葉にも表れていると思います。

 ただし、いかなる政策を実現するにも、人々自身の能力としての『人的資源』や人々が協力し合って動くための『社会工学』は必要です。

 人的資源を育成・確保する政策とそのための人材、技術を活用する政策とそれを助ける社会工学的技術……。何だかニワトリとタマゴのようですね。でも文明の各要素には、そうした相互作用の関係もあるということも、この作品は考えさせてくれました。

 『文明』という、大きく総合的な視点から物事を見るということの面白さ、大事さを教えてくれた『銀河英雄伝説』。今度も素晴らしい映像化作品ができることを、期待します。
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