第4話

文字数 2,275文字

「目標は決まりましたが、この後どうします?」

メルリーンが訊いた。

「悔しいが、今の俺ではまだ奴に勝てない……。力をつけないと」

するとジライが案を思い付く。

「メル様。あの方に助言をもらうというのはどうでしょう」

「あの方?」

クロンが訊き返すとメルリーンが答えた。

「マスター様です。いろんなことに詳しいのですよ」

「謎なところも多いが信頼はできる人物じゃよ」

「そう言うならそのマスターという人に会おう。だがどこで?」

「とりあえずどこか町に行きましょう。そこで出会えます」

「そこで?」

クロンにはわからない。適当な町で会えるとは思えないからだ。

「小僧。ちゃんと考えがあるのだ。ついてくればいい」

「あ、ああ」

クロンは、先を行くメルリーンとジライについていくのだった。



それから数日後、3人はとある町にいた。

そこまで大きくはないが、宿、店、酒場など活気がある。

メルリーンとジライはすぐに酒場に向かい始めた。

「おい。マスター様って酒場のマスターのことじゃないだろうな」

「そんなことあるわけなかろう」

ジライが軽く笑い飛ばす。

「まあ見ておけ」

酒場に入ると3人はマスターの前に座る。

「マスター。『マスター』をお願いします」

「……わかりました。明日の朝もう一度お越しください」

それだけ言うと酒場のマスターは店の奥に消える。

「これで大丈夫。明日には会えます」

「よくわからないが……明日になればいいんだな?」

「うむ」

それを聞くと3人は宿に向かう。



夜中。

ジライは早々と寝る中、クロンは腰かけたまま赤いペンダントを取り出した

「それは……?」

「……起きてたのか」

部屋の端のベッドから、メルリーンはクロンに近づく。

「形見だ。一族の……な」

「大切な人の……ですか?」

クロンの表情からメルリーンは思う。

「……そうだな。向こうがどう思ってたかは知らないが」

「どんな方か訊いていいですか?」

クロンはペンダントを掲げながら頷いた。

「俺とは正反対の一族の才女だった。このペンダントのような赤い髪が特徴のな」

クロンは虚空を見ながら続ける。

「その子、レッカは優秀でしかも優しかった。一族の恥と言われた俺にも。なのに俺は――」

メルリーンがクロンにさらに近づく。そして優しく頭を撫でた。

「大丈夫。大丈夫ですよクロンさん。だからそんなに悲しい顔をしないで。泣かないでください」

「え……?」

クロンの両目からはいつの間にか涙がこぼれていた。

クロンは涙を拭うとペンダントを荷物にしまいベッドに移動する。

「情けないところを見せた」

「泣くことは情けないことではないですよ」

「……ありがとう。おやすみ、メルリーン」

「はい。おやすみなさい、クロンさん」

夜の光が2人を照らしていた。



翌日、酒場前。

「開いてないぞ」

「おかしいですね……」

3人は酒場の扉を叩くが返事はまるでない。

「早すぎましたかな」

「むしろ遅いくらいと思うが……」

クロンの言う通り、時刻は昼に近かった。

そう言っていると――。

「待たせたね」

急に扉が開き、中から男が現れる。

長身ですらっとした見た目。サングラスに近い眼鏡。左手はケガをしているのか包帯で包まれている。

「遅いですよ、マスター様」

「申し訳ない。先約があってね」

マスターは謝りつつ、3人を酒場に入れる。

「さて、では君たちがすべきこと……だね」

「!」

突然の本題に驚きつつも、クロンは表情を引き締めた。

「クロンくん。君は力を上げたいならその力、魔王サタニアルの力を制御できるようにすることだ」

「この力を?」

魔王サタニアルのことも知っていることに驚きつつ、クロンは聞き返す。

「だが、この力は……」

クロンはためらう。

魔王サタニアルの力。それは村を飲み込んだ闇の力。

「その剣と鎧を使っているのに今更ためらうのかい?」

マスターはクロンの背負っている大剣を指す。

「その剣と鎧もサタニアルの力の1つ。『魔王剣サタニアルブレイド』『サタニアルの闇鎧』だ」

「それは……」

「制御できないのが怖いかい? だがサタニアルの力を制御できなければ君は勝てない」

ずっと聞いていたメルリーンが横から割り込む。

「マスター様! クロンさんは――」

「わかっている。だが並大抵の気持ちでは勝てない。それをわかってもらいたい」

クロンはメルリーンをどけてマスターの前に立つ。

「わかりました。どうすればいいですか」

その返事にマスターは頷くと、懐から地図を取り出した。

「その地図の印の場所に行きなさい。順番はどれからでもいい」

クロンは地図を開く。地図にはいくつかの目印が付けられていた。

「5つか……」

「あ、ここは……」

メルリーンが地図の中央を指す。

「マスター様は塔にも行けと?」

「帰りづらいかい?」

「いえ、そういうわけでは……」

メルリーンが言葉を詰まらせる。

(帰る……? この場所はメルリーンの故郷なのか?)

地図とメルリーンを交互に見ながら、クロンはジライに確認する。

(詳しくはメル様が話すまで待ってくれんか)

ジライはそれだけ言って話を終わらせる。

「とりあえず近場から始めるか」

クロンは今の町から一番近い印を指すと、二人に確認する。

「はい、それでいいですよ」

「うむ」

クロンは地図を閉じると、マスターの方を向いた。

「ありがとうございます。マスター」

マスターは微笑すると立ち去りながら呟いた。

「私は道標を指したに過ぎないよ。勝てるかは君次第だ」

そう言うとマスターは酒場を去る。

「確かに謎の多い人だったな……」

「でしょう? だけど常に的確な情報をくれる人です」

会話しながら3人も酒場から出る。

「じゃあ行くか、第一の目印へ」

クロンは力を求め第一の試練へ旅立つのであった。
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