第3話

文字数 1,001文字

 夕刻時、俺はいつもの病院にいた。
 去年、俺と両親は車で外出中に事故にあった。両親は俺を庇い即死だった。その後遠くの叔父に引き取られた。そのせいで学校も転校したがこれは仕方ない。
 事故のショックから当時の記憶は曖昧だが、その時世話になったのがこの病院だ。俺もそのとき頭部に外傷を負ったらしく、定期的に検診に通うように言われている。
「前の検診の時から、頭痛などはしないんだね。何か違和感なんかもない?」
「はい。今のところ大丈夫です」
 担当医である大原眞(おおはらまこと)は、いつも穏やかな印象をうける柔らかい微笑みを浮かべた。
「それじゃあ、いつものようにベッドに横になって」
横になると、いつもよくわからない機材と取り付けられる。
「じゃあ、ちょっとちくってするけど、すぐに眠くなるからね」
 注射を打たれ、俺はすぐに眠りに落ちた。




「記憶は正常に書き換えられてるよ。いやー、すごいねぇ」
 パソコン画面に並ぶデータを見ながら、眞はニヤニヤとしていた。
「ごっこ遊びも大変ですよ。いつまで続くんですかこれ」
「それなりの報酬もらってんでしょ。それより実の母親の死刑のニュースにも反応なしか。政府のよく許可したよね、こんなえげつないもん」
いかにも楽しげな眞の対称的にしかめっ面をした小森泰造はベッドに眠ったままの小森拓也、否、木原神風に目をやった。

 世間を騒がせた大事件、その犯人である木原美帆(きはらみほ)は、極小の狂った新興宗教の教祖をしていた。誰も知らない世間に何の影響も与えない泡沫の宗教は、一人息子に多大な影響を与えた。
「すこし前までは何言ってるのかさっぱりだったからな。罪は犯してないし、上も扱いに困ったんだろ」
 元々学校にも行っていない、閉鎖的な環境で次の教祖にするべく洗脳され育った子供だった。
 だから、小森拓也という全く別の人格を上書きした。AIでつくった偽物の両親、監視員である赤の他人である叔父、辻褄を合わせた世界を与えた。
「政府も思い切ったよなぁ。まぁ、いい判断だよ。あのまま生きててもどうせ碌なことにならないしな。……それに、いい実験素材だったのかも」
 眞の言葉に泰造は、いい実験素材だと思っているのはアンタだろうと内心呟く。
「いい判断、ねぇ」

 それにしても、拓人の人格を上書きされたなら、元の人格である神風はどこにいるのだろうか。
 きっと違和感がなくなるほど死んでいく。泰造は消えゆく少年に心の中で手見合わせた。
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