第1話

文字数 1,234文字

 約半年前、地元の開業医のG先生から病院のことでお叱りを受けた。
 G先生と話をしたところ、結局はコミュニケーション不足による誤解で、すぐ話は丸く収まった。それを機会にお互い、妙に気が合い飲み仲間になった。
 G先生は地元の開業医の重鎮である。御年80の後半になられる。
 いつも病院に外線が掛かり、
 「ああ、僕だけど、先生、来週の木曜日の夜は都合、空いてる?」
 「大丈夫です。」
 「それはよかった。では夜6時に□□の店で飲んでいるから。」
で電話は切れる。通話時間は約15~20秒だ。
 当日、約束の場所に行く。宴席はG先生を囲むようにG先生の友人と私の計3名、多くても4名である。
 G先生は、生ビールを1杯飲んだ後は、焼酎の烏龍茶割または水割りを飲む。
 ある時、G先生の健康が話題になった。
 「いやぁ~、実は僕はねぇ、病気の宝庫でねぇ。」
 G先生は頭のてっぺんから足の先まで、病名と検査結果を事細かく説明してくれた。しかし私は、( 実はいろいろ病気はあるが、自分は100歳までは生き延びられる )というG先生の読みというか、自信を見抜いていた。
 「そうですか、それは大変ですねえ。でも先生、先生はそれらの病気で死ぬとは思っていないでしょう?」
 「ん? 君、痛いとこを突くねえ。年寄りは周囲から『元気そうだ』と言われると照れ臭いというか、あまり素直に喜べないんだよ。」
 G先生から年寄りの微妙な心理を教えてもらった。早速、臨床に役立てようと思った。
 二次会は行きつけのスナックのカウンターでカラオケを歌う。
 ここでG先生の実力には恐れ入る。G先生の18番は Elvis (エルビス) Presley (プレスビー)
   Can't Help Falling in Love (好きにならずにいられない)
   You don't have to say you love me(この胸のときめきを)
   Jailhouse Rock(監獄ロック)
   Love Me Tender (優しく愛して)
さらに The() Beatles(ビートルズ)
   Let It Be(レット・イット・ビー)
など全て英語の歌なのだ。ふ~。
 夜の10時頃になると、
 「さて、そろそろ entlassen* しようか?」
(* ドイツ語:[エントラッセン] (entließ; entlassen) [他] ⸨j4 [aus et3]⸩ (人を〔…から〕)去らせる, 解放〈釈放〉する; 卒業〈退院〉させる; 解雇する)
とこれまた格好いいのだ。
 そのG先生は事情があって今は一人暮らしだ。
 帰り際に一言、(つぶや)かれた。
 「君、帰っても家は真っ暗で誰もいない。一人暮らしは寂しいよ。」

 最初、1カ月に1度だった定例の飲み会の間隔が、最近、だんだん短くなってきた。

 さて写真は、2023年4月10日、庄内町の桜並木と鳥海山である。

 今度、G先生のお宅の庭で、皆で持ち寄りで花見をしようという企画がある。

 んだんだ。
(2023年4月)


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