第4話 大問題への率直な思い

文字数 1,741文字

 昨今、世間を騒がせている大問題がある。テレビでもネットでもその問題ばかり取り上げているから私がわざわざ語る必要もないのは間違いない。人々、特に若者はこの問題に食傷気味であるし、私たちより上の年代の方々はそもそも興味ある人の割合が少ないかもしれない。
 けれど、私もこの問題について一つ言いたいことがある。それを黙っていられるほど、私は社会に従順ではないし、未来を考えていないわけではなかった。ただし、もし箝口令が敷かれようものなら、私は途端に口をつぐむだろう。それくらいの覚悟しかないのだ。半端者と嗤いたければ嗤ってもいい。社会の犬と罵りたければ罵ってくれていい。意志なき者と見下したければ見下せばいい。
 たしかにかっこいいよ。自分の意見を曲げずに言いたいことを言える人は。社会に批判されてもそれでも立ち向かう人は。でも、守らなければいけないものがある人もいる。自分の信念よりも遥かに守りたい者がいる人がいる。その人はその守る者のためならなんだって捨てるだろう。芯がないと言われても笑ってやり過ごすだろう。かつて何よりも大事だった自分のプライドも守る者のために捧げると誓った揺るがない芯があるから。
 ちなみに私は末っ子であり、私には守れる人がいないので、私のことは安心して罵倒して問題ない。罵倒されたい癖があるのではない。そういう役割も必要だろう。
 一つ懸念があるのは、この問題によって傷つけられた被害者がいるかもしれない点だ。私はその被害者に配慮した言葉選びをしなければならない。この問題の詳細についてなかなか話し始めないのには、このような理由が根底にある。焦らしているのでは決してない。
 君に誓ってもいい。誓わなくてもいい。誓ったと思ったのに、誓い漏れていて、俺らも年取ったな、と笑い合ってもいい。やっぱりだめ。私の一人称が俺だった時代は一秒もない。僕っ娘はいても俺っ娘はまだ世間に浸透していないから、先陣を切って俺っ娘のカリスマになりたくない。団体戦の時はだいたい中堅でいたい私だ。この「いい構文」も懐かしい。過度にノスタルジックになってきた。
 被害者に対する配慮だが、考えても答えは出ない気がしてきた。人が言葉を発する限り、誰かが傷つくことはあるわけで、何も喋らなければいいという極端思考は、言葉が救いになるシチュエーションを完全に無視している。だから、私は被害者に配慮したいという私側の健全な思考を持っている時点で、もう何も心配はいらないはずだ。そもそも、私は考えすぎているだけでこの問題に被害者なんていない。いるとしたら、その人はどの問題においても慢性的に被害者であるだろうから、私もそこまで手を回せない。さて、懸念はエデンへ。
 私がこの問題について語るのを焦らしているという声がちらほら聞こえてきた。あんなに誓ったのに。私が誓ったのは嘘だって責めたいのか。心外だが忍耐。でもこれだけは言いたい。韻を踏むのに夢中で何を言うか決めていなかった。しばし待たれよ。
 そうだ、最初に述べたが、言い換えるなら、先述したが、この問題は世間を騒がしている。つまり、私は読者がこの問題を知っている前提で話している。だとしたら、焦らしているという指摘は見当違いすぎる。モナリザと真珠の耳飾りの少女の絵を並べて、間違い探しをさせるようなものだ。こんな問題を出す人が間違っていると回答して、正解になってしまう。頭を柔らかくして考えよう、じゃないのだ。柔軟剤くらい柔らかくしてやろうか。この辺にしておこう。
 もう読者も薄々感づいているだろうが、私が話したいのは緑のパンツについてだ。あの原色に近い緑のスラックス。恐らくおしゃれなのだろう。おしゃれな街に繰り出すと必ず一人は緑のパンツの女性を見かける。彼女たちは唐突に私に緑を摂取させてくる。意図しない緑はアッパーカットを食らったような衝撃をもたらしてくる。よくよく考えれば街で、あの原色の緑を目にすることはない。夏の桜の木の緑も信号の緑もあのパンツの緑とは異なる。あれ、信号を青ではなく緑っていうのはタブーなんだったけ。どっちか忘れた。
 時はかなり来た。満を持して、私がこの問題について言いたい主張をさせてもらう。
あれは何だ、本当に地球の物か?
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