第1話

文字数 772文字

あの樹は

あの樹は何というのだろう
生まれたばかりのような
鮮やかな初々しい若葉の枝々が
まっすぐ天に向かって屹立している
地の引力に離反して宇宙へ
魅せられて あれほど伸びやかに
扇を広げるように天へ向かっているのか
大地に咲いた巨大な新緑の扇
その若葉の何という清潔さであろうか
これほど初々しい緑の色彩を他に知らない

桜は あっという間に
散ってしまったが 桜などよりも遥かに
圧倒的な質感と迫力と爽やかさで
春の訪れを言祝ぐあの樹は何というのだろう
地の底から響くように春風をどよもし
喜びを歌っているあの樹は何というのだろう

その名を知ってはならない
スマホなどで調べてはいけない
そんなもので知った気になってはいけない
それが現代人の知性の堕落なのだ
ただ あの樹をここから眺めていればいい
聴いていればいい 感じてればいい
流れて来る風に身を任せていればいい


ファンレターさまの紹介

漲る生命
そよぐ風に揺れる眩い新緑が目に浮かぶようです。青空に両手を大きく広げ、何処までも伸びようとする樹に漲る生命を感じました。写真や絵画では決して写しとることの出来ない美しきもの。心で感じ目に焼き付け、その薫りを胸一杯に吸い込む。そうすることで自らの内にも生命が漲って来るのだと思います。草花や樹に思いを寄せる詩人、星野富弘の詩画を思い出しました。「樹は自分で動き回ることが出来ない 神様に与えられたその場所で一生懸命生きようとしている…略…そんな樹を私は友達のように思っている」確かこのような詩があったように記憶しています。樹と私達は、限られた命の中で与えられた宿命を背負いつつも懸命に生きている所が似ていて親しみを感じるのでしょう。今年も巡ってきたこの美しい季節の中に私も静かに溶け込み、心に感じるまま内なる生命に耳を傾けてみようと思います。彩り豊かな素晴らしい詩をありがとうございました。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み