第1話

文字数 1,192文字

 働き方改革で70歳定年が推奨され、希望すれば70歳まで働けるようになった。
 一方で、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されている。「犬も歩けば棒に当たる」ではなく「犬も歩けば認知症に出会う」、体験したことのない時代がやって来るのだ。不老長寿の薬はない。
 当院は急性期病棟、回復期リハビリテーション病棟、医療療養病棟、地域包括ケア病棟を院内に併せ持つ「ケア・ミックス型」の病院で、これに当院と関連する4つの老健施設とともに、地域に医療を提供している。そのため、高齢者に接する機会が多い。
 認知症の予防には、「教養と教育が大切で、サンデー毎日は禁」は本当だと痛感する。ここでいう「教養(きょうよう)今日(きょう)(よう)がある」「教育(きょういく)今日(きょう)行く(いく)所がある」で「サンデー毎日=毎日が日曜日(サンデー)で暇だ」である。総じて高齢者は社会から疎遠になると、孤独を経て認知症が進みやすい。
 私の外来に通う80歳を過ぎた独居のお婆さん(失礼っ)がいる。高血圧で降圧療法も安定しているので、次回の外来受診日を4~8週間後の中から患者さんに選んでもらっている。
 「状態は変わりなく落ち着いているので、次回の外来受診日を決めて下さい。」
 「あ~、んだの。」
と彼女は手帳を取り出す。1日が一つの升目になっている1か月見開きのページを開く。いつも驚くのだが、こちらからは細かくて内容までは分からないが、そのページの升目がほとんど埋まっているのだ。
 「忙しいですね。」
 「んだ~。暇がねえ~。」
 その患者さんの予定のページもさすがに新型コロナウイルス感染拡大時にはほとんど空白だった。が先日、受診した際、いつものように手帳を開いて(いわ)く、
 「先生、すげえもんだの。コロナが落ち着いてきたらだんだん予定が入ってきた。」
 嗚呼、この患者さんは、歳を取っても社会と繋がっているなと感心した。

 さて、写真は地元のお好み焼きである。

 開業して約40年のお好み焼き屋で、カウンターで年季の入った大きな一枚板の鉄板で、大将が焼いてくれる。酒のつまみも焼いてくれるので、呑み助も集まる。鉄板の中心部は長年、ヘラで擦られて黒光りしてすり減っている。相棒の女将も気風(きっぷ)がよい。
 その大将と女将が先日、「もう高齢だから店を閉じようかと相談している」と弱音を吐いていた。「神様が用意してくれた呆け防止のこの環境を、絶対に捨てては駄目だ。どうか美味しいお好み焼きをずっと焼き続けて欲しい。」と飲兵衛の常連と半分は医師の立場で懇願した。
 認知症防止に相応(ふさわ)しいことわざがある。
  使っている機械は錆びない・使っている(くわ)は光る
  流れる水は(くさ)らず
  転がる石には(こけ)は生えぬ

 「教養と教育」は認知症の防止に大切だ。
 んだんだんだんだ!!!!(←「んだ」の4連発。感動の強さによってだんだん連発数が多くなる。「んだ」の10連発もある。)
(2021年11月)
  
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