序文 掲載動機など

文字数 2,854文字

 わたしはかれこれ一人暮らしを始めて10年近く経ちます。
 当時25歳前後、お金をなるべく節約したかったわたしは家具類への出費を極力削り、使えればなんでもよいとばかりに嘘みたいな安値で電化製品を揃えたのでした。
 そうした事情もあり、テレビが映らなくなってはや6年以上。まさに安物買いの銭失いというありさま。その間になにが起きたか想像できますでしょうか。そう、わたしは相対論の

という例のちんぷんかんぷんな主張を身をもって体験したのであります。
 時間は絶対的な尺度のように思われますが、実はそうではなく、①観察者が高速で運動している、②強重力が働く場所にいる、のいずれかで極端に遅くなります。わたしは地球上で生活しておりましたので、むろん①、②のどちらも該当しないのですが、まったく光陰矢の如し、世の中の流れの速さにはまこと驚かされます。
 つい最近までマツケンサンバだなんだと騒いでいたのが、昨今のトレンドはコロナウイルスワクチンの陰謀論だそうで……。まさに相対論的な時間伸長にさらされた気分です。
 時代のトレンドにようやく追いついたものの、わたしはさして気にも留めておりませんでした。だってそんなこと気にする理由がないですもん。どうせ非科学的なたわごとのオンパレードなんでしょ? いちいち検索する気も起きず、どんな珍説が飛び交っているのかも知らぬまま、今日まですごしてまいりました。

 きっかけは別稿で環境問題(とされているだけで実はそうでないたわごと)のアホらしさを論じた際、いただいたコメントでした。ワクチン陰謀論に関しても書いてほしいというまこと温かい応援のお言葉をいただいたのですね。相対論的な時間伸長世界に取り残されていたわたしは、そのコメントで初めて陰謀論なるものがはびこっているのを知ったわけです。
 でも本格的にやるとなると面倒だなあ、悪いけどたぶん書かへんわ、とのんべんだらり、ぐうたらすごしていたおりもおり、動画サイトのおすすめ機能にmRNAワクチンの安全性について論じているとおぼしき主張が目に飛び込んできました。
 結論から申しますと、わたしはその動画を見ておりません。見るまでもなく、現状の知識で判断できたからです。ですからその動画についてあれこれ言うつもりはないですし、視聴していないのでその資格もありません。
 わたしが衝撃を受けたのはコメント欄です。そのあたりはのちに詳述する予定ですが、とにかくそれがきっかけとなり、こんなしょうもない論稿を書く破目に陥った次第であります。
 なにがしょうもないのかと申しますと、わたしの見聞きした陰謀論のなんれもが高校生程度の学力があれば、正しくたわごとであると判断できるしろものだからです。日本は高校進学率が100%近いという統計があるので、それを信じるなら本論考は書かれる必要のないもののはずなのですが……。
 本論では科学的知見をもとに、陰謀論なるものをひとつずつ駆逐していく予定です。またバックボーンたるワクチンの作用機序、ウイルスそのものの構造、遺伝子のしくみなども必要に応じて解説されるでしょう(あくまで素人の耳学問の範疇になる旨、あらかじめご了承ください)。
 わたしは取り扱う陰謀論の取捨選択はしませんでした。あまりにもバカバカしくて取り上げる価値のないもの――それをいうなら陰謀論すべてがそうなのですが――もあえて拾ってあります。読者はとくに興味のあるトピックだけ拾い読みするのもよいでしょう。

 始める前にわたしが本論を掲載することで得られる利益について、ここで明らかにしておきとうございます。著者は単なる一般人にすぎません。社会的な正義感に燃えてとか政府の回し者とかではなく、純粋に自己の利益を第一として本論を執筆いたしました。
 その利益とはずばり、全体主義国家傾向の揺り戻し、および閉塞状況の打破であります。コロナウイルス蔓延のせいでいまや、日本は戦前の軍事イデオロギーに染まり切った全体主義国家へと転落している最中のようにわたしには思われます。
 国民みずからが外出しているだけの人間を攻撃し、ウイルスの感染に少しでも寄与したと思われる個人を特定、ネットでさらし上げるといった私刑すら横行している始末ですよね。わたしはこうした傾向が気色悪くて吐き気を催しているのですよ。実に横並びが大好きな日本人らしい、陰湿なソシオグラマーといえるでしょう。こういう正義マンには早急に退場してほしいというのが一点。
 もう一点は緊急事態宣言やら蔓延防止措置やらの、法的根拠の怪しい戒厳令みたいなの。これをさっさとやめてもらいたいのですよ。ふらっと夜中にご飯を食べにいこうにもお店が閉まっていたり、商業施設も自粛して営業を休止していたり、ろくすっぽ遊べない。なにやらクーデター後の軍政を敷かれたような雰囲気になっていて、まこと暮らしづらいったらありゃしない。
 これはコロナウイルスのせいではなくて、純粋に政府のせいです。こんな大げさなまねをやらかさなければ、国民もここまで全体主義思想に染まらなかったでしょう。わたしは国会議員ではないのでどうにもできませんが、さしもの政府もワクチン接種率が高水準にいたれば、自由への許されざる容喙をやめるはずです。
 わたしはリバタリアン(完全自由主義者)を自認しておりますので、なにより自由を制限されるのがまことに苦痛なのであります。したがって陰謀論の打破は結局わたし個人の利益に還元されるのですが、おそらく本論は副次的な効果として、社会全体への利益にもなるでしょう。そうした意味でこんな乱筆駄文にもある程度の意義があると確信し、掲載を決意した次第です。
 肩の力を抜き、陰謀論の滑稽さに苦笑していただければ望外の幸せです。

 本題へ入る前に本論の構成をご紹介しておきます。
 第1章ではウイルスについて通り一遍の知識が(趣味丸出しの脱線気味の論調で)掲載してあります。なるべく肩ひじ張らないよう書いたつもりですが、時間のないかたはざっと目を通す程度でもかまいません。
 第2章ではワクチンの解説を行っております。こちらもある程度の知識をお持ちのかたは必ずしもお読みいただく必要はありません。必要に応じてトピックを参照するだけにとどめるのも手でしょう。なんといっても1~2章は(著者の予想に反して)長くなってしまったので。
 第3章が本論の目玉であります。ずばり陰謀論の調理ですね。本章についてはきっと楽しんでいただけると自負しております。もしピンとこないのであれば、観念して1~2章を読みましょう。陰謀論のあまりの滑稽さに爆笑することうけあい。
 第4章では恒例のお説教タイム、著者の押しつけがましい結論を述べてあります。本章は全面無視でもかまいません。興味のあるかただけお読みください。
 巻末には参考文献を掲載する予定です。ぜひ手に取っていただき、分子生物学やワクチン学の橋頭堡としていただければ幸いです。
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