目覚めの年
文字数 822文字
一、
歓声が包む闘技場の中で、今年もやはり二人の男女が向き合っている。
男は、六年目の英雄の座を死守するために中心で剣を構えた。対する女は四度目の挑戦だ。今度こそその座を手にせんと目の奥を光らせている。
対峙する二人の緊迫した空気を、解説者がそれぞれの立場を踏まえそう語った。
構図としては確かに間違いない。立場上で言えばその通りであったが、しかし二人にとってはそんなことどうでもいいものなのだ。英雄の座など最早この場で向かい合うための口実であり、勝てば勝手についてくるおまけのようなものでしかない。
昨年まで異様なほどに瞳の奥で執着を燃やし、ユシャを通して英雄の座をにらみつけていた彼女の瞳は、しかし、あのぐつぐつと煮えたぎるマグマのような熱をすっかり失っていた。今は一点の曇りもなく、透き通るように美しい赤が煌めいて、向かい合うユシャと同じようにバチバチと音が聞こえそうなほど光がはじけ、輝いていた。
その瞳を見れば一目瞭然である。彼女もユシャと同じ気持ちで向き合ってくれているのだと、当然のように理解することができた。英雄ではない、ただ一人ユシャという男と向き合ってくれているのだと。
彼はただそれが嬉しくて、そして何より楽しくてたまらなかった。
執着の荷を捨てた彼女の華麗なステップは美しく、軽やかに舞うように剣を振るう彼女はこれまでよりもずっと強敵であった。
嗚呼、なんて楽しいのだろうか。永遠にこうしていたいと思うほどの仕合。ユシャが強く踏み込めば、彼女はひらりとかわし、重く切り込めば、軽やかにいなす。
かつてないほどに長く、一昨年よりも、昨年よりも、一層洗練されどちらが勝つともしれない接戦に、観客たちもみな揃って熱狂した。
そうして、躱し、交わり、繰り返された長い長い戦いの末に、漸く一人の勝者が決まる。
皆が立ち上がり一際大きな歓声が沸き上がる中、拍手と紙吹雪が降り注ぐ中で、最後まで立っていたのは果たしてどちらであっただろうか。
歓声が包む闘技場の中で、今年もやはり二人の男女が向き合っている。
男は、六年目の英雄の座を死守するために中心で剣を構えた。対する女は四度目の挑戦だ。今度こそその座を手にせんと目の奥を光らせている。
対峙する二人の緊迫した空気を、解説者がそれぞれの立場を踏まえそう語った。
構図としては確かに間違いない。立場上で言えばその通りであったが、しかし二人にとってはそんなことどうでもいいものなのだ。英雄の座など最早この場で向かい合うための口実であり、勝てば勝手についてくるおまけのようなものでしかない。
昨年まで異様なほどに瞳の奥で執着を燃やし、ユシャを通して英雄の座をにらみつけていた彼女の瞳は、しかし、あのぐつぐつと煮えたぎるマグマのような熱をすっかり失っていた。今は一点の曇りもなく、透き通るように美しい赤が煌めいて、向かい合うユシャと同じようにバチバチと音が聞こえそうなほど光がはじけ、輝いていた。
その瞳を見れば一目瞭然である。彼女もユシャと同じ気持ちで向き合ってくれているのだと、当然のように理解することができた。英雄ではない、ただ一人ユシャという男と向き合ってくれているのだと。
彼はただそれが嬉しくて、そして何より楽しくてたまらなかった。
執着の荷を捨てた彼女の華麗なステップは美しく、軽やかに舞うように剣を振るう彼女はこれまでよりもずっと強敵であった。
嗚呼、なんて楽しいのだろうか。永遠にこうしていたいと思うほどの仕合。ユシャが強く踏み込めば、彼女はひらりとかわし、重く切り込めば、軽やかにいなす。
かつてないほどに長く、一昨年よりも、昨年よりも、一層洗練されどちらが勝つともしれない接戦に、観客たちもみな揃って熱狂した。
そうして、躱し、交わり、繰り返された長い長い戦いの末に、漸く一人の勝者が決まる。
皆が立ち上がり一際大きな歓声が沸き上がる中、拍手と紙吹雪が降り注ぐ中で、最後まで立っていたのは果たしてどちらであっただろうか。