第1話

文字数 1,162文字

 昨年の秋に日本胸部外科学会が東京で開催された。そこで心臓血管外科専門医の更新の際には受講歴が必須でもある医療安全講習会に出席した。講習会のテーマは胸部外科領域での新型コロナウイルス感染対策に関することで、講師は感染症分野の第一人者だった。
 内容の概要は、感染対策のポイントは、ウイルス感染経路の一つである飛沫(ひまつ)に暴露しないことである。飛沫に暴露する可能性が一番高いとされている診療行為の気管内挿管(きかんないそうかん)*より、院内ではもっと多量の飛沫が発生する場面がある(*口から喉頭(こうとう)鏡で喉頭を展開し、声帯を確認して直接、気管内に気管チューブを挿入し留置する手技)。それは、人がマスクなしでする1回の咳である。それに対して不識布(ふしきふ)マスクは有効で、咳で飛散する飛沫を最小限にし、また飛沫を浴びる方も飛沫の吸入を最小限に抑える。だから院内では職員、患者をはじめ全ての人が不識布マスクを正確に着用することが大切だ。とのことだった。基本的、常識的な結論で拍子抜けした感があったが、研究の結果が極めて単純明快であるところに返って真実味があった。
 当院でも職員、患者、出入りの業者など、院内に立ち入る人には全てマスク着用をお願いしている。
 これで困ったことがある。何しろ目しか出ていないので、顔の表情がよく伝わらない。On(オン)-line (ライン)会議や朝礼で皆がマスクをして並んでいる時に誰かが発言する。同じ姿勢でいると、誰が発言しているのかが分からない場面が多々ある。だから、
 「マスクをして発言する時は、着席の時は立ち上がるとか、立っている時は一歩前に出るとか、さらに身振り、手振りを加えてジェスチャーを大きくして、『私がしゃべっています』と皆に分かるようにしましょう。」
と助言している。
 極めつけは表情だけでなくその人の素顔そのものが分からないことだ。当院では全国の病院から初期研修2年目の研修医の離島・僻地(へきち)研修を2カ月交代で受け入れている。ある研修医の研修が始まって1か月が過ぎた時のことだった。彼は新しいマスクに交換する時に、マスクを外した。何とその研修医は立派な口髭をはやしていた。1か月もの間、全く気が付かなかった。いや~、ホントに驚いた。
 さて写真は本文とは関係ないが、2013年8月に上野動物園で撮影したハシビロコウである。

 ハシビロコウはペリカン目ハシビロコウ科ハシビロコウ属に分類されるペリカンの仲間で、その鋭い眼光の目と大きな(くちばし)が特徴的だ。また「動かない鳥」として有名で、湿地帯で好物の肺魚を、肺魚が空気を吸いに水面に上がってきた時に捕らえるために、じ~っと待ち伏せをしている。実物も本当に置物のように動かないので、ゆっくりと撮影できた。
 これがマスクをした人がじ~っと立っているのと同じように見えたので載せてみた。
 んだんだ!
 (2022年3月)
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