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文字数 747文字

 四角い窓からあなたを見おろしていた。あなたは、くる日もくる日も土をほり、それを積みあげてうつくしいものをつくる。土の染みこんだ手は、やわらかな尾をもつ魚を生んだ。つめのはがれた指先は、天幕のように緻密な草花を育てた。あなたの箱庭ほどうつくしいものを、わたしはしらない。ひかりは平等に降ると知っていても、箱庭を照らすそれはいっそうまぶしく見える。
 けれども、あなたは土をほる。地にひざをつき、怒りにまかせて掴みあげているように見えた。ときおり立ちあがり見上げる目の黒さは、白い布地に空いた穴のようだった。あなたの箱庭は、そのようなものでできていた。
 あなたは、あなたの箱庭をどう思っていたのだろうか。箱庭の近くに花や石がそえられることがあった。あなたはそれらをうやうやしく拾いあげ、箱庭からはなれた場所に並べた。あなたはそえられたものを抱きしめることはなかった。あなた自身がつくりだしたものを抱きしめることもなかった。
 わたしは、あなたの箱庭が好きだった。それらがこの窓から見えなくなるほどまで広がってゆく様を見ていたかった。けれども、あなたのことを同じようには見ていなかった。
 あるはやい朝のことだった。わたしがカーテンのすきまから窓をのぞくと、あなたは箱庭に立っていた。ぼんやりと高いところをながめながら、あなたは歩きだした。その速度はだんだんと上がり、やがて走るような速度になったとき、あなたの一歩は宙を踏んだ。あかい、火のような背中であなたは朝焼けの空を走った。くじらのような大きな雲に飛びこんで、そのままいなくなった。あかい空に埋もれたのか、とけてしまったのか。
 ゆるやかに白んでゆくひかりが、あなたのいない箱庭を照らす。いつか苔むした残骸となっても、この箱庭はうつくしいままだろう。
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