青夢花

文字数 847文字

 三年前の旅行先で買ったおそろいのお守りのかけ紐だけが、みっともなく揺れている。それを見て、あたしが何と言ったのか思い出せない。あなたの顔がずっと焼きついているから。

 昔からあなたは地味で人と話すことが下手で、あたしの後ろを歩いていた。部活が同じで、毎日一緒にお弁当を食べたし、あたしが先輩に告白されたことも共有した。当然だけど、付き合っていない。あなたは鈍臭くて要領も悪いけど、何でもできることだけが人間の魅力じゃないから。
 あたしたちは大学生になっても一緒にいて、いつでも仲良しだねって言われてきた。バイトは一緒じゃないけど、飲み会を全部断ってお互いの家で飲むこともあった。卒論とか就活とかよくわからなくて面倒なことがたくさんあった。でも、そのどれも大切なことじゃない。あたしの人生の先は、これまでの延長線上にある。
 二人で卒業旅行にも行った。山奥のお寺で、ずうっと一緒にいようねってお願いをしてお守りも買った。あたしは信心深くないけど、あなたがうれしそうだから深く考えなかった。
 大学を卒業して、就職して、それでも頻繁に会って話をした。仕事は楽しくなくて、あなたも同じだと言って、不満話で盛り上がった。
 でも、気がついたら会う頻度が減り始めて、あなたの言うことがよくわからなくなってきて、あたしの言いたいことを理解してくれなくなって。久々に会ったら、あなたのお守りが千切れていた。何年も前のことだから曖昧で、とにかくあたしはそれが許せなくて。
 嘘、覚えている。
「ごめんって何、そんなこと言われたいわけじゃない。約束したじゃん、なのに謝ったらいいって、その程度なわけ? 昔からいつもそう!」
 たまに喧嘩したときのようにそう言った。あなたは何も言わなかった。
 あの日のことを繰り返し思い出す、忘れられるはずがない。
 でも、あなただって後悔しているよね、あんな顔したのだから。吐き気で飛び起きたり、頭を抱えて眠れない夜を、今でもあなたも過ごしているでしょう。
 夢の中でいつも泣いているのだから。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み