てんせいって、なんですか

文字数 1,661文字

 とってもキラキラしたおねえさんです。
「いたかったね。もうだいじょうぶよ」
 そっと、あたまをなでてくれました。
 さいしょはこわくて、「やだぁっ!」っておねえさんをぶってしまったけど、たたきかえされませんでした。
 けられなかったし、なぐられなかった。
 ベルトでぶたれることも、タバコをギュッとされることもなくて、びっくりしちゃった。
「おねえさん、おこらないの?」
 そおっと上を見たら、おねえさんはニコニコわらってます。
 ……わらってる……。
 すごく、すごくきれいで、こころがホワホワします。
「あなたをおこる人なんて、ここにはいないわ」
 おねえさんはあたしをだっこするとフワっとうかんで、ユラユラしてくれました。
「ずぅっとまえね」
「ええ」
 ユラユラ、ユラユラ。
「おかあさんも、こうやってくれた」
「そう」
「でもね、あたらしいおとうさんのおうちにひっこししたら、おとうさんおこるから、やってくれなくなちゃった」
「そう」
 ユラユラ、ナデナデ。ユラユラ、ナデナデ。
 おねえさんの手はあったかくて、気もちよくて……。
「おねえさん」
「なんでしょう」
「あたしはわるい子だから、じごくってとこにいくんでしょう?」
「……」
「かわいくないから、ぶたれるんでしょう?バカだから、ごはん、たべちゃだめなんでしょう?」
 わあ!キラキラがふえた!
 あったか~い。……気もちいい。
 だっこしてくれるおねえさんが、もっとフワフワになって、ホカホカしてきたみたい。
「あなたはかわいい。こんなにかわいい。タマシイもかがやいていて、とてもきれい」
 ポツンと水がおちてきて、びっくりして上を見たら、おねえさんがポロポロないていました。
 なみだ……。
 おとなの人も、なくんだ。
 ……そういえば、おかあさんがないてたことも、あったなあ……。
「あのね、おねえさん」
「はい」
 ポロポロ、ポロポロ。
 おねえさんのなみだは、おかあさんが一こだけもってるゆびわの、ダイヤモンドみたい。
「はじめて、いまのおとうさんにぶたれて、口からちが出たときにね」
「はい」
 ポロポロ、キラキラ。
「おかあさん、ないたの。かわいそうって。でもね、そしたら、おかあさんもぶたれたの。だから、おかあさんはわるくないって、さっきうちにきたおまわりさんに、いいたかったんだけど」
「やさしい、いい子ね。それはべつのタマシイのもんだいだから、あなたは気にしなくていいの」
 おねえさんのやさしいこえをきいていたら、きゅうにねむたくなってきました。
「……おねえさん」
「なんでしょう」
「ランドセル、おとうさんがほうちょうで、ギタギタにしちゃったの……」
「……」
「おまえなんか、学校いかなくていいって。おかあさんといっしょに、赤くてカワイイの、えらんだのに。だから、もう学校にいけなくなっちゃった……」
「その愚かで哀れな魂に報いは必ずある。けれど、今は何もできない。できるのは、とびきりの加護をあなたにつけること」
 それってなに?って、もうきけなかった。
 ねむくて、ねむくて。
「この愛しい魂に、最大の加護を」
 どんどん、どんどんからだはあつくなっていくのに、おねえさんはギュウってだきしめてくれるのに、おとうさんがふとんでグルグルまきにしたときみたいに、くるしくはならなかった。
「つかれたでしょう。もう、お休みなさい」
「ねていいの?」
「もちろん」
「ベランダでねろって、いわない?」
「もちろん」
「ねてるときに、水かけたり、しない?」
「もちろん。もうなにも、しんぱいしなくていいの」
 耳のすぐちかくで、上からも下からも、右からも左からも、おねえさんのキレイなこえがきこえてきました。
「……おやすみなさい……」
 やっとぐっすりねむれるんだ。……しあわせだなぁ。

「あの可愛い子は、今どこにいるかしら」
 下界をのぞき込んだ女神に、きらめく笑顔が広がっていく。
「ああ、笑ってる。……あの無垢な魂に、さらなる祝福を」
 純度の高い氷のように透き通っていて、氷砂糖のように甘い女神の歌が、いつまでもいつまでも、下界に向かって送られていた。
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