第4話
文字数 1,354文字
『若さの定義』
「私には何もありません」
その言葉が聞こえた方を私は瞳だけを動かして見つめた。
「目指したいものも、したいことも、一生一緒に過ごしたい人も」
ぽつぽつと私の横で彼女は言葉をこぼしていた。
きっとさっき上司に何か言われたからそんな言葉が出たのだろうが私は仕事に集中していたものだから、彼女が上司とどんなやりとりをしたのかがわからない。
しかし、いつも強気な彼女が少し暗い顔していることに違和感を感じた。
私はキーボードから手を離し、椅子の車輪を体ごと動かして回転させ、彼女の方に顔を向ける。
言葉を掛けようとしたが、口をつぐんだ。
彼女を見ているといつも自分に疑問が沸く。
彼女は失敗を恐れない。
いつもがむしゃらに仕事をして、全力で失敗しても、どんなに上司に怒鳴られようとめげることはない。
(私だって)
昔はそうじゃなかったのに、どうして変わったのだろう。
若い頃は何も怖くなかったんだ。
それは自分の若さに甘えていたからな気がする。
若いからなんでも許されるなんて思っていたわけじゃないけど、若いからどんなことをしても悪いことにはならない、そんな根拠のない確信はあったのだ。
若いうちにしたいことをしておけばきっと後悔のない人生になる。
だから若いあなたたちを見ていると思わず言いたくなる。
「あなたは若いから何でもできるじゃない?」
それはもう聞き飽きた。
そう瞬時に思ったことが顔に出ていたのか、私の目の前にいる先輩は怪訝そうにこちらをじっと見つめていた。
思わず焦って笑顔を作る。
「そうですね」
自分から話しかけたくせにもう会話はしたくなかったのでそのままパソコンと向かい合って、カタカタと音を鳴らした。
(何を期待していたのだろう)
少し上司にきつく怒られて私は気が滅入っていた。
だからいつも優しい言葉をかけてくる先輩に励ましてもらおうなんて思ってしまった。
(なのに)
カタカタカタと鳴る音が少しずつ弱くなっていく。
私はいつの間にか手を止めていた。
(若いからなんて言葉)
じっと自分の手の甲を見つめる。
私の手にはまだシワ一つない。
若い若いとよく言われるその言葉がなぜこんなに無性に悲しいのだろう。
私に若さしかないとしたら歳をとる私はどうなるのだろう。
だからもうどうか言わないでほしい。
若いから何でもできるなんて言葉。
それはあなたが若い頃に何一つ成果を残せなかった結果だからじゃないの?
それはあなたの言い訳じゃないの?
今の私が若ければ、なんでもできたっていう。
だったら今から見せてよ。
私はあなたからそんな言葉聞きたくない。
私が聞きたいのは歳をとっても何でもできるって言葉。
私たちに今だけじゃないってことを教えてほしい。
だからあなたの言葉はもう聞きたくない。
「・・・」
私はいつも我慢ができない。
「あの」
横にいた先輩は目だけで私を見つめた。
「若いとか関係ないと思います。私は」
私はぎゅっと拳を握り締めていた。
どんな言葉を掛けてほしいというのだろうか。
一体何を期待しているのか。
そんな私の気持ちと裏腹に先輩は黙って再びパソコンに目を戻した。
私はそんな先輩の横顔をそのまま見つめていた。
「私には何もありません」
その言葉が聞こえた方を私は瞳だけを動かして見つめた。
「目指したいものも、したいことも、一生一緒に過ごしたい人も」
ぽつぽつと私の横で彼女は言葉をこぼしていた。
きっとさっき上司に何か言われたからそんな言葉が出たのだろうが私は仕事に集中していたものだから、彼女が上司とどんなやりとりをしたのかがわからない。
しかし、いつも強気な彼女が少し暗い顔していることに違和感を感じた。
私はキーボードから手を離し、椅子の車輪を体ごと動かして回転させ、彼女の方に顔を向ける。
言葉を掛けようとしたが、口をつぐんだ。
彼女を見ているといつも自分に疑問が沸く。
彼女は失敗を恐れない。
いつもがむしゃらに仕事をして、全力で失敗しても、どんなに上司に怒鳴られようとめげることはない。
(私だって)
昔はそうじゃなかったのに、どうして変わったのだろう。
若い頃は何も怖くなかったんだ。
それは自分の若さに甘えていたからな気がする。
若いからなんでも許されるなんて思っていたわけじゃないけど、若いからどんなことをしても悪いことにはならない、そんな根拠のない確信はあったのだ。
若いうちにしたいことをしておけばきっと後悔のない人生になる。
だから若いあなたたちを見ていると思わず言いたくなる。
「あなたは若いから何でもできるじゃない?」
それはもう聞き飽きた。
そう瞬時に思ったことが顔に出ていたのか、私の目の前にいる先輩は怪訝そうにこちらをじっと見つめていた。
思わず焦って笑顔を作る。
「そうですね」
自分から話しかけたくせにもう会話はしたくなかったのでそのままパソコンと向かい合って、カタカタと音を鳴らした。
(何を期待していたのだろう)
少し上司にきつく怒られて私は気が滅入っていた。
だからいつも優しい言葉をかけてくる先輩に励ましてもらおうなんて思ってしまった。
(なのに)
カタカタカタと鳴る音が少しずつ弱くなっていく。
私はいつの間にか手を止めていた。
(若いからなんて言葉)
じっと自分の手の甲を見つめる。
私の手にはまだシワ一つない。
若い若いとよく言われるその言葉がなぜこんなに無性に悲しいのだろう。
私に若さしかないとしたら歳をとる私はどうなるのだろう。
だからもうどうか言わないでほしい。
若いから何でもできるなんて言葉。
それはあなたが若い頃に何一つ成果を残せなかった結果だからじゃないの?
それはあなたの言い訳じゃないの?
今の私が若ければ、なんでもできたっていう。
だったら今から見せてよ。
私はあなたからそんな言葉聞きたくない。
私が聞きたいのは歳をとっても何でもできるって言葉。
私たちに今だけじゃないってことを教えてほしい。
だからあなたの言葉はもう聞きたくない。
「・・・」
私はいつも我慢ができない。
「あの」
横にいた先輩は目だけで私を見つめた。
「若いとか関係ないと思います。私は」
私はぎゅっと拳を握り締めていた。
どんな言葉を掛けてほしいというのだろうか。
一体何を期待しているのか。
そんな私の気持ちと裏腹に先輩は黙って再びパソコンに目を戻した。
私はそんな先輩の横顔をそのまま見つめていた。