第11話 午前11時のバス停

文字数 603文字

「おはよ。」
待ち合わせ場所には、ナユタとサクトが既に揃っていた。
ナユは真っ白なキャミソールのワンピースに黒いDr.Martinのブーツを履いていた。
真っ白な布に、鮮烈な赤が焼き付いてしまい、僕は目を逸らした。
「行こうか。」
サクが僕の袖をつつく。
今日は少女のような服は着ておらず、Tシャツにジーンズだった。
「動きやすい方がいいかと思って。」
思い詰めたような表情から僕は目を逸らす。
相変わらず、窒息しそうな熱気で、目を閉じたらそのまま蒸発しそうだ。
僕たちは言葉少なに焼けた道を歩く。
映画館のある街にはバスが通っている。バス停には、申し訳程度の庇の待合室があるが、数人の住民で埋まっていた。
首の折れた向日葵が僕たちを見下ろしている。

ナユは虚ろな目で時刻表を眺めている。
汗ばんだ肌に、白い布は今にも透けてしまいそうだったが、なぜか透けることはなかった。
「ねえ、今日の映画、興味ある?」
沈黙に耐えかねたのか、ナユが呟く。
「まあまあ。」
「それなりに。」
僕とサクはボソボソと答えた。
ジリジリと油蝉が喚く。待合室にいる人達はじっと俯いて暑さに耐えているようだった。
「来た。」
ゆっくり、ゆっくりと、混雑したバスが近付いてくる。
濃いガソリンの臭い。
ゆっくりとドアが開く。

人間が落ちてくる。
バスの中から、無数の白目がこちらを捉えた。
「逃げろ。」
サクが叫んだのか僕が叫んだのか。
走り出す瞬間、運転手の全てを諦めた目を見てしまった。

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