第1話

文字数 1,199文字

詩集のある風景


詩とは本当に不思議なものである
あの日 あれだけ惹かれた詩が
今日は何も感じない むしろ
色あせた空虚な文字列にしか感じられない
あのとき なぜ あれほど
引きこまれたのだろう

それは 恋にも似ている
あれほど 夢中になった相手が
今となっては なぜ あんな人に
あれほど入れ込んでしまったのだろう
と訝る気持ちに似ていなくもない
しかも 遠い昔に熱心に読んだ詩が
今はつまらないというのではなく
少し前にあれほど感心した詩が 
今日はまったくつまらないと感じるのだ

ひとつには詩の持つ性格が
大きくかかわっているのだろう
詩は敢て論理性や時系列などを排して
書かれたものも多く 表現も多重性や
余韻を重視しているので 読み手の
解釈に多様性が与えられている
それで その時々の読み手の気持ちや
気分 さらには体調によって大きく
印象が左右されてしまうのだろうか

我が家の雑然としたリビングのテーブルに
古い詩集が冬の陽射しに照らされて
静かに佇んでいる 詩集のある部屋の風景
これだけでも何か豊かな気持ちになれる
一冊の古い詩集が置いてあるだけで
その部屋に何か特別な空気を醸す
詩集は小説の本 雑誌 新聞とも
明らかに違う雰囲気を部屋に漂わす
その正体はいったい なんなのだろう
それは無用の用や心の贅沢さというものと
関係があるのではないだろうか

詩集は絵本に似ている 子どもは
熱心に何度も同じ絵本に繰り返し見入る
詩集もまったく同じで ある種の大人たちは
今日の自分の心身のリトマス紙として
同じ詩集を繰り返し手にするのだ
それは鏡の中の自分をさぐるような
作業かも知れない


ファンレターさまの紹介

詩とは心身のリトマス紙

 同じ詩集を手にしても、その時々の心身状態によって、スッと心に入り込む時もあれば、色褪せてつまらなく感じる時もある…まるで心模様を映す鏡のようですね。心身のリトマス紙と表現されている所がとても上手で的を得ていると思いました。その空間に詩集があるだけで、雑然とした部屋がまるで違って見え、鈍色に輝き始める…そんな光景が目に浮かびました。詩とは恋にも似ている。そして絵本にも似ている…確かにそう思います。その詩集全体が持つ佇まいと詩の中にキラリと光る、ある言葉の群れにときめき心を捕まれる恋にも似た思い。そして幼い頃、同じ絵本を時が過ぎるのも忘れて絵の隅々まで何度も読み、言葉もすっかり記憶して諳じられる。
それ程までに大好きだった物も何故か潮が引くように、酷くつまらないと思ってしまう時がある。その時々の感情で見方が変わる。話は少し変わりますが、同じ詩を読んでいても感じ方は十人十色なのだと気付かされる時もあります。自分の解釈と他人の解釈がだいぶ違って、そういう見方もあるのかと驚かされることも、詩の面白さなのかも知れません。余計な言葉は語らず、絶妙なバランスで書かれる詩は、とても奥深いと思いました。これからも詩の良さを伝え続けて下さいね。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み