口説かれる
文字数 1,721文字
あの後、折原君に会っていなかったから額がどうなってたかは知らない。
今は大丈夫みたいだけど。って、もう何ヶ月も経ってるからか。
球技室に入ったら誰も居なかった。後ろから折原君が覗き込む。
「今日は誰も居ませんね」
「ホントね。サボってるのかしら」
「な訳ないですよ」
「どして?」
「定期試験中です」
「あら。半日だったのか」
「そうですよ」
「なら、何故、君は残っているんだ? 試験勉強しなくていいの?」
「(僕はラッキーを見つけたから)テニス部に試験は関係ないんですよ」
「へぇ。そりゃ知らなかった」
「で、鹿島先輩はどうするんです?」
「何が?」
「誰も居ないのに、一人ピンポンですか?」
「それは面白くない。仕方無いから帰る」
「僕、相手しますよ」
「出来るの?」
「そりゃ。テニスと似てるし」
「全然違うよ」
「ボールの大きさとコートの広さはね」
「卓球を馬鹿にしてる?」
「いえいえ。馬鹿にしてませんよ。でも、折角来たんだから打ちたいでしょ。シロウトを鍛えるつもりでいいですし」
「そっか。折原君を鍛える。いいかも」
「卓球部への勧誘は遠慮しますよ」
「あら。凄い自信ね」
有難い申し出があったから、折原君にラケットを渡す。
「予備のだから、ラバーがくたびれてるけど打てるから」
「こう持てばいいんですね」
ルールを説明する。折原君が真面目に聞いてくれるから驚いてる私だ。
狭い台に入れるのに苦労してたみたいだけど、直ぐに慣れてきている。
「卓球も面白いですね」
「動く範囲が狭いけど、結構な運動量でしょ」
「そうですね」
ラリーが続く。面白い。折原君がボールを散らし始める。
(ナマイキな)
だてに部長をやっていた訳じゃない。私だって県大会で三位に入ったんだ。
いつの間にか折原君相手にムキになっていた。
「鹿島先輩」
「何?」
「考えてくれました?」
「何を?」
「やだなぁ。僕と付き合うって事ですよ」
「え?! あっ、避けて!」
突然そんな事言われて、打ち返した手からラケットがスッポ抜けた。ラケットは真っ直ぐに折原君の顔を狙ってすっ飛んでいく。
(ヤバイ。ヤバイよ)
前にも同じ事やったのが走馬燈のように駆け巡る。それも折原君にだ。二度目の加害者に…。
加害者になる覚悟をした時、折原君は私が投げつけたラケットを手でキャッチした。
「あ…よ、良かったぁ」
私は台に手をついてへたり込んでしまう。
(良かった。加害者にならなくて、良かった)
折原君が台を回ってきて私の傍に来る。
「ラケットは人に投げるもんじゃないですよ。先輩」
「折原君が変な事、言うから」
「変な事でしたか?」
「そうよ。付き合うなんて言うから、冗談でも驚いちゃって」
「冗談じゃないですよ」
「え?」
「だって、前に「考えとく」って」
「え? あれ本気?」
/ 「鹿島先輩だったら、引っ張ってってくれる人じゃないとダメでしょうね。僕なんかどうです?」
「本気だったんだけどな」
「そう…」
(真面目に取り合って無かったです)
「この前は、鹿島先輩と二人きりになりたくて、ボールに当たったんですよ」
「え? あれわざと? 確かに今、ラケットに当たらなかったけど」
「僕、反射神経がいいんですよ。動体視力もある」
「避けれるんだ」
「そうそう。で、どうですか? 僕と」
「え? どうって。…もし、今、私が付き合うって言ったら、そんなんでいいの? 私、真面目に折原君の言った事、考えてなかったのに」
「・・・」
「それに、折原君と私ってクラスメートでも、部活でも、委員会とかで一緒になったとかでも無いんだよ。折原君の気持ちは嬉しいけど、私は折原君の事を見てなかったんだよ。知らない事が多すぎるよ。だから…ごめんなさい」
「鹿島先輩は今、好きな人いるんですか?」
「いないけど。あ、何、恥ずかしい事言わせるのよ」
「なら、これから僕の事、知って欲しいな」
「え?」
「先輩、暇人なんでしょ? これから沢山、遊びに行こうよ。試験と部活の合間になるけど」
「…ちょ、ちょっと」
「今は付き合うとか関係無しでいいですよ。決まりっと。じゃ、先輩の番号教えて下さい。僕のはこれですから」
スマホを差し出されても困る。…のに。なんで、私は受け取っているんだ?
私、口説かれてしまったんだ。恋が動きはじめた瞬間だった。
- F I N -
今は大丈夫みたいだけど。って、もう何ヶ月も経ってるからか。
球技室に入ったら誰も居なかった。後ろから折原君が覗き込む。
「今日は誰も居ませんね」
「ホントね。サボってるのかしら」
「な訳ないですよ」
「どして?」
「定期試験中です」
「あら。半日だったのか」
「そうですよ」
「なら、何故、君は残っているんだ? 試験勉強しなくていいの?」
「(僕はラッキーを見つけたから)テニス部に試験は関係ないんですよ」
「へぇ。そりゃ知らなかった」
「で、鹿島先輩はどうするんです?」
「何が?」
「誰も居ないのに、一人ピンポンですか?」
「それは面白くない。仕方無いから帰る」
「僕、相手しますよ」
「出来るの?」
「そりゃ。テニスと似てるし」
「全然違うよ」
「ボールの大きさとコートの広さはね」
「卓球を馬鹿にしてる?」
「いえいえ。馬鹿にしてませんよ。でも、折角来たんだから打ちたいでしょ。シロウトを鍛えるつもりでいいですし」
「そっか。折原君を鍛える。いいかも」
「卓球部への勧誘は遠慮しますよ」
「あら。凄い自信ね」
有難い申し出があったから、折原君にラケットを渡す。
「予備のだから、ラバーがくたびれてるけど打てるから」
「こう持てばいいんですね」
ルールを説明する。折原君が真面目に聞いてくれるから驚いてる私だ。
狭い台に入れるのに苦労してたみたいだけど、直ぐに慣れてきている。
「卓球も面白いですね」
「動く範囲が狭いけど、結構な運動量でしょ」
「そうですね」
ラリーが続く。面白い。折原君がボールを散らし始める。
(ナマイキな)
だてに部長をやっていた訳じゃない。私だって県大会で三位に入ったんだ。
いつの間にか折原君相手にムキになっていた。
「鹿島先輩」
「何?」
「考えてくれました?」
「何を?」
「やだなぁ。僕と付き合うって事ですよ」
「え?! あっ、避けて!」
突然そんな事言われて、打ち返した手からラケットがスッポ抜けた。ラケットは真っ直ぐに折原君の顔を狙ってすっ飛んでいく。
(ヤバイ。ヤバイよ)
前にも同じ事やったのが走馬燈のように駆け巡る。それも折原君にだ。二度目の加害者に…。
加害者になる覚悟をした時、折原君は私が投げつけたラケットを手でキャッチした。
「あ…よ、良かったぁ」
私は台に手をついてへたり込んでしまう。
(良かった。加害者にならなくて、良かった)
折原君が台を回ってきて私の傍に来る。
「ラケットは人に投げるもんじゃないですよ。先輩」
「折原君が変な事、言うから」
「変な事でしたか?」
「そうよ。付き合うなんて言うから、冗談でも驚いちゃって」
「冗談じゃないですよ」
「え?」
「だって、前に「考えとく」って」
「え? あれ本気?」
/ 「鹿島先輩だったら、引っ張ってってくれる人じゃないとダメでしょうね。僕なんかどうです?」
「本気だったんだけどな」
「そう…」
(真面目に取り合って無かったです)
「この前は、鹿島先輩と二人きりになりたくて、ボールに当たったんですよ」
「え? あれわざと? 確かに今、ラケットに当たらなかったけど」
「僕、反射神経がいいんですよ。動体視力もある」
「避けれるんだ」
「そうそう。で、どうですか? 僕と」
「え? どうって。…もし、今、私が付き合うって言ったら、そんなんでいいの? 私、真面目に折原君の言った事、考えてなかったのに」
「・・・」
「それに、折原君と私ってクラスメートでも、部活でも、委員会とかで一緒になったとかでも無いんだよ。折原君の気持ちは嬉しいけど、私は折原君の事を見てなかったんだよ。知らない事が多すぎるよ。だから…ごめんなさい」
「鹿島先輩は今、好きな人いるんですか?」
「いないけど。あ、何、恥ずかしい事言わせるのよ」
「なら、これから僕の事、知って欲しいな」
「え?」
「先輩、暇人なんでしょ? これから沢山、遊びに行こうよ。試験と部活の合間になるけど」
「…ちょ、ちょっと」
「今は付き合うとか関係無しでいいですよ。決まりっと。じゃ、先輩の番号教えて下さい。僕のはこれですから」
スマホを差し出されても困る。…のに。なんで、私は受け取っているんだ?
私、口説かれてしまったんだ。恋が動きはじめた瞬間だった。
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