５

車両のあちこちに刻(きざ)まれた血の痕跡(こんせき)。


車窓(しゃそう)に張(は)り付いた血の手形。



その合間(あいま)で流れる天(あま)の銀河。



　死と幻想。



その対照的(たいしょうてき)なコントラストが、
極上(ごくじょう)のアトラクションの様(さま)で流れ続けていた。


その夢の狭間(はざま)で、
ただ胸から伝わる小さな温もりだけが、
僕を現実世界に止(とど)ませていた。


胸の中の小さな命が僕に勇気をくれた。


前方の壁には、
大きなモニターテレビが備(そな)え付けられ、
その左右に１つづつ、
次の車両に続く扉がついていた。


テレビからはザーザーという無機質な砂嵐が、
延々(えんえん)と垂(た)れ流されていた。


その砂嵐の中から、
何かがじっとこちらを見つめている気がして、
僕は目を凝(こ)らす。


その嵐の向こうに、
座席に座ったままこちらの世界を見つめる、
老人が見えた。


僕は瞬間、
込み上げた恐怖に硬直し立ち止まると、
胸の中の少女が顔をもたげ、
こちらを仰(あお)ぎ見ていた。


『どうしたの？』


「なんでもない」



僕はその声に冷静さを取り戻し再び確認する。


前の座席にはザクロのように弾(はじ)けた頭蓋(ずがい)。


地獄行きの座席にぽつりと老人が一人、
目を見開いたまま脳髄(のうずい)を垂(た)れ流し死んでいた。


モニターに写り込んだのはこの老人だった。


それを改めて確認する。


そして再び少女の顔を手で目隠しすると、
胸に押し付け次の車両に続く左側の扉を開いた。