第1話

文字数 964文字

 にんにく(大蒜)の味の強烈さは、ギトギト系の料理の味付けや酒によく合う。
 そして何より、にんにくそのものが美味しい。

 「えっ!? 今まで仕事でしたか? 夕飯もまだだの?」
 行きつけの街のお好み焼き屋の暖簾(のれん)を夜の8時過ぎにくぐる。自分ではそうは思ってはいないが、大将は私の顔から疲れを読み取る。
 「ふ~。」「今日は先ずは、ビールを下さい。」
 「んだの。」
 駆けつけのビールはどの季節でも一年中、喉越し爽やかで美味い。
 「パフ~~~。」
 空いたグラスをトンッ!と置く。
 「大将、にんにくを焼いてバターでくれる?」
 「はいよ。」
 写真↓はにんにくの鉄板焼きのバター添えである。

 オリーブオイルを垂らして生にんにくを鉄板で蒸し焼きにする。爪楊枝がにんにくにス~ッと刺さったら食べ頃だ。これがまた、ホクホクしてビールや焼酎、レモンハイによく合うのだ。

 そんなある夜、最近よく顔を出す気風(きっぷ)のいいママさんのスナックで、史上最強のつまみに出会った。
 「先生、いいもん摘まむか?」
 「おぅ、何だ?」
 「『にんにく玉』だよ。」
 「え~~っ? 何だそれ?」
 山形県は日本一のラーメン王国だ。庄内町にもラーメン屋は数多くある。その中で美味しい醤油ラーメンの店がある。そこでは毎日、醤油系の出しを取っている。出しの具材の中に青森県産のにんにくを使っている。「にんにく玉」は、その()(がら)のにんにくだそうだ。
 「そのにんにく玉はの~、出し殻だから毎日、捨ててんだって。だからタダでもらってくんな。」
 出してくれた「にんにく玉」はやや小さくなって濃い飴色(あめいろ)に染まっていた(写真2↓)。


 「美味そうだの~。」
 身を(ほぐ)して小片を口に含む。ん~~~、口に広がるにんにくの強烈な味と香り、そして醤油と味噌を合わせたようなこってりとしたコクのある塩系の味がそれに続いた。
 「う、うめえの~!!」
 「んだろぅ?」
 焼酎の水割りをゴクゴクと流し込む。パフ~~~。至極の時間。
 大きな寸胴鍋(ずんどうなべ)の中で、にんにくからも出しが出るが、逆ににんにくにもほかの出しの具材の味がしみ込む。だから出し殻のにんにくであっても美味しいのだ。
 「にんにく玉」。病みつきになった。店にとって材料の原価ゼロ。これを捨てている庄内は、何と贅沢な食の都なのだろうと思った。

 んだんだ。
(2024年1月)
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