第3話

文字数 483文字

 「この集会は、本来ホワイトチャペルの連続殺人犯逮捕を求める集会だ」

 尾崎は驚いて群衆に目を向けた。
 尾崎の耳には、セシル首相の辞任を求める声が大きくハッキリ聞こえてきた。

 「尾崎君。
 市井こそ社会だ!
 市井こそ政治だ!
 政治家をめざすなら、最後までこの事件を見届けたまえ。
 僕は帰国の準備がある。
 それでは!」

 尾崎は直立不動の姿勢で深く頭を下げた。
 純一郎がマリーと連れ立って帰るのを見送った。
 純一郎は最後にはマリーとうちとけた関係になり帰国にあたって西陣織の小箱を贈った。

 12月1日。
 「朝日新聞」に織田純一郎の「欧米通信」掲載。
 その中の「不思議の犯罪」で、「切り裂きジャック事件」が詳しく紹介され、当時唯一の現地報道となった。


 織田純一郎(おだじゅんいちろう)(1851-1919)
 明治のジャーナリスト。イギリスのリットンの小説を『欧州奇事花柳春話(おうしゅうきじかりゅうしゅんわ)』と題して翻訳出版。日本の翻訳小説の草分けとなる。
 「朝日新聞」の主筆となり、日本の新聞界初の欧米特派員として「切り裂きジャック事件」日本伝来の草分けとなる。
 吉村昭の小説で知られるラナルド・マクドナルドの最初の紹介者。


 
 
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登場人物紹介

織田純一郎

 明治時代のジャーナリスト。肩書に「日本の草分け」が並ぶ才人。ロンドンで切り裂きジャック事件に遭遇する。

尾崎行雄

 後の国会議員。1888年秋、ロンドンに在住。

 織田純一郎の切り裂きジャック事件取材を批判する。

マリー未亡人

 織田純一郎の下宿先の女主人。

謎の男

 織田純一郎の生涯に関わった人物の中で今もよく分からない人物。

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