第１話

　　〈偶然を楽しむ⭐〉

　♬「は、か、た、の、塩！」
　台所にいると、懐かしいCMソングがテレビから聞こえてきた。
　いまもまだこのCMやってるんだ〜。
　そう思うと、あることが思い浮かんだ。

　一年前、Twitterで仲良く交流していた人が作った、おちゃらけ動画。
　街を歩きながら都会の風景を撮り、最後にいきなり意味もなく、「は、か、た、の、塩！」って流してたっけ。
　若い彼女が作っただけに、インパクトがあった。こんな若い子も、このCM知ってるんだと驚きもした。

　そんな記憶がよみがえったことも忘れたある日のこと。
　湯船に浸かっていると、なんの脈絡もなく、ふと、絵本を借りに図書館へ行こうと思い立った。ヒラメキを行動に移して善は急げ。
　久しぶりに入った図書館で目的の絵本を借り、ほかの棚も見ていると、芋づる式に借りたい本が出てきた。両手いっぱいに抱えた本を持ってカウンターヘ急ぐ。
「何冊まで借りられますか」
「十冊までです」
　セーフ。
　そのなかの一つに、『塩浴生活をはじめよう！』という本があった。
　パラパラと中身を見て、なんとなく借りようと思った本。
　家に帰って読んでみる。
「塩だけで髪もからだも洗ってしまう新習慣」、「これが塩浴です」とある。濃度の高い塩湯を作って、手で全身に塗るだけの、いたってシンプルなもの。
〈はじめに〉を読んで驚いた。
　なんと、「は、か、た、の塩！」のCMソングでおなじみの会社を創った父が考案者と書いてあるではないか！
　こんなところで再び、〈伯方の塩〉とお合いするとは思ってもみなかった。
　
　デトックス効果があり、むくみにも効くと書いてある。わたしにとってはうれしい限り。
　いままでは浴槽にひとつまみの塩を入れて浸かっていたし、顔を塩で洗ったとき、肌がつるつるになった体験もある。やってみようと思った。

　本を読み進めて最後に気がついた。
　わたしはこれまでずーっと、〈伯方の塩〉を、九州の”博多の塩”だと思い込んでいたことに――。
　伯方って、愛媛県なのね……。恥ずかしながら、いまごろ知った。

　お風呂に入って、塩湯で洗ってみた。
　本には、上から洗うと効率がいいとアドバイスしてある。　
　困ったことが一つあった。
　頭と顔を洗っている間、目が開けられなかった……。
　
　偶然出合った伯方の塩つながり。
　きっとわたしにいい効果を運んでくれるだろう。
　もう少し楽しんでみようと思う。