三幕

文字数 1,334文字

ゴールデンウィークを終えた5月の中旬


オレの思い描いていた先輩後輩の関係とは程遠く、木ノ本はよそよそしく、距離を感じる。


「木ノ本、お前は可愛くない」
 昼休みの食堂で一緒に昼食をとりながら、木ノ本に愚痴る
 「仕事が出来過ぎ。もう少し先輩に頼れよ

オレの立場がないだろう。簡単に契約取るなよ」

 「仕事が出来るのは先輩のご指導のたまものです。でも必要な時は頼ります」
 「そういうところも可愛くない。出来過ぎて嫌だ」
 「でも、仕事が出来ないと先輩に迷惑がかかりますよ」
 「それもいやだ。仕事は出来ないよりは出来た方がいいけど、お前は圧倒的に可愛さが足りないんだ」
 「そう言われても、先輩の求めている可愛さってなんですか?」
 「そうだな。犬みたいな従順さは欲しいところだな」
 ニヤリと笑い、意地悪を言うが、木ノ本は飄々と
 「犬ですか。どの犬種が好きですか」と返してくる。
 「そうだな。ゴールデンレトリバーやラブラドール・レトリバー」
 「大型犬ですね」
 「そうなんだよ。従順でおりこうでかわいいだろう。将来、妻と子供と庭付き一戸建てで飼うのが夢なんだ。あ~、理想の家族って感じだよな」
……家族か
木ノ本は吐き捨てるように言う
なんだよ。あ、わかったぞ。お前は、こんなご時世に、結婚して、

一戸建てさらに犬までを買おうなんて

甘い夢見過ぎだろう。現実見ろ!年収を考えろ!歳上なのに、幼稚だなって思ったんだろう

そこまでは、考えてませんよ。被害妄想だな。先輩らしいなとは思いますけど

でもその夢を叶えるためには、結婚相手が必要ですね

かわいそうに、気が遠くなりそうな時間がかかりそうですね

いい笑顔で、木ノ本が、心を抉っていく。


本当にそういう所が可愛げがない

「お前、本当に性格悪いぞ。まぁ、 その話はおいといても、

もう少しだけオレと仲良くしようという気持ちはないのか。最初から嫌いみたいだけど、お前に何かしたのか」

 「覚えてないんですね」
 「覚えてないってやっぱり知り合いなのか」
 「そうですね。僕は、先輩にいじめられてました」
 「いや、そんなことしないから……」
 記憶を失っている部分もあるせいで断言はできない。それでもその頃は芸能界にいて

学校へ行く時間も少なく、いじめなんてしている時間はない。そんなことするなら

演技の練習をする。だが、その事を言えば、俳優をしていたことを話さないといけない。
 「……嘘ですよ。ちゃんと断言してくださいよ。それとも出来ない理由があるんですか」
 「意地悪。でも嫌われる原因なんて思い当たらないんだけどな」
 「そう思っているのは先輩だけですよ」
 「嫌な所があるなら、ちゃんといえよ。俺も大人だし、直す努力をする。お前とは仲良くしたい」
 「仲良く? 先輩、後輩として?」
 その言葉にほんのりといやらしさを感じる。
 「もちろん、でもその聞き方だと、先輩後輩の関係じゃ嫌なのか?そんなに本当はオレと仲良くしたいの」
 「出来れば、仕事以外では仲良くしたくないですね」
 「可愛くないな。オレは先輩だぞ」
 「先輩という傘を振舞わすとパワハラになりますよ」
 「あ~、付き合いずらい。なんでもパワハラかよ」
 「そうですよ。だから必要以上に感傷しないでください。迷惑です。先に戻ります」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

狭間 敬仁(はざま たかひと)

木ノ本 真(きのもと まこと)


狭間の後輩


鈴木美晴(すずき みはる)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色