第2話

文字数 985文字

やっぱり来るんじゃなかった.......

これが颯斗の感想である。
暑さに関しては、外も家もたいして変わりはなかった。
変わりはなかったのであるが.......外は動くのが大前提だという事を失念していた。
動けば暑い。
暑いのにさらに暑くなるとか.......地獄以外のナニモノでもない!!
少しでも涼しい場所を求めて、颯斗は近所の公園の日陰にあったベンチに腰をかけた。
リードを最大限に伸ばしてシーさんは1匹で元気に遊んでいる。
自販機で買った冷たい水をシーさんと2人で分け合い、暑さに疲れた身体を休ませながらしばし音の世界に颯斗は入り込んでいた。
サワサワと揺れる木の音。
静寂の中に響く車の音。
自転車のこぐ音に鈴の音。
どこからともなく聞こえてくる人々の会話の声。
シーさんが必死でゼェゼェ息をする音でさえ、どこか遠くから聞こえてくるようであった。
目に映るものが現実味を帯びないぼんやりとした無意識の世界の中でフイに颯斗は小さな子供の姿が変にリアルに感じた。
砂場で汚れる子供と子供の服についた砂を払う母親の姿。
きっと、子供を叱咤しながらも赦してる母親に赦される事を信じて疑わない子供。
(羨ましい.......)
颯斗と同年代であろう少年、少女達の浮かれた笑い声。
少女達はどのクラスの男子が格好良い、誰が好きで応援するとか、今放送してるドラマの誰がカッコイイとか言って笑っているのであろう。
少年達は最近でたゲームの話。お笑いの話。思春期の拙い知識の、下ネタで盛り上がっているのかもしれない。
(寂しい.......)
どれも今の颯斗には手に入れることの出来ないもの.......であった。

(ずるい......俺も.......)

無関心を装うことで感じないでいられたナニカを無理やり突きつけられた気分であった。
(何してんだ?俺.......)咄嗟にそう思って再び無関心を装おとするが、1度感じた何ともいえない感情は制御するのは難しいものだ。
1人で自分のしっぽを追いかけて回るシーさんを無表情で見つめ、ぐちゃぐちゃしてきた感情にフタをして逃げるように颯斗は立ち上がると公園から走り去った。
引きずられるように最初は歩いていたシーさんも、かけっこと勘違いしたように一緒に駆け出す。
全速力で1人と1匹は短い外出から帰路に着いたのであった。


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