本編の前に:キャッチコピーの意図+ファンタジーを選択した理由

文字数 2,277文字

 【キャッチコピーの意図】
 本作では、「聖書に基づき主に西欧で展開された”神との関係性”をめぐるドラマ (思想)」を、「大きな世界観」のもと、「ボーイミーツガール」を中心とした「剣と魔法のファンタジー」として再構成したい。


 「なぜ、“ファンタジー”なのか」は次に理由を記す。


 さて、「ファンタジー」には、近年、安易に転生したり、人間の能力をスキル化(数値化・単純化)させた作品は数多い。


 しかし、これらの要素は「キリスト教の観点から受け入れられない」と確信する。そのため、本作では、こういった要素を扱うことは絶対にしないつもりである。


 また、昔から、聖書や教会に関連した要素を、さまざまに再構成したオタク作品 (ラノベ含む)は数多ある。


 しかし、そういった作品群は、「神」「魂」「魔術/呪術 magic」などの形而上の概念を扱う際に、19世紀以降の近代オカルティズムおよびロマン主義、また、20世紀のニューエイジ思想、そしてそれらを経由した「新霊性運動」(島薗進)の思想に、しばしば無自覚なまま“汚染”されてきたように思われる。


 おそらくそのせいで、例えば、唯一神への信仰や教会制度をはじめとするキリスト教的な要素が、主に創作者の無理解、無関心、誤解あるいは悪意によって、悪しき存在として描写されてきたことが多かったように思われる。


 本作では、最初はこのような旧来のやり方に一部従う部分があるが、それはあくまでも入口で興味を引き付けるための手段である。最終的には「無自覚的かつ浅薄なキリスト教批判を良しとする観点」から脱却し、できるだけキリスト教信仰者の世界観を考慮したいと考えている。



【ファンタジーを選択した理由】

 「ファンタジー」を選択した理由は、以下のとおり、4つある。

※理由 (1):海外の先行作品を意識した結果
 日本はキリスト教徒人口が1%程度しかいない非キリスト教圏である。そのため、知識人ですら時にキリスト教の知見や知識に乏しい環境にある。

 さらに、聖書の史的な物語化は、旧約・新約問わず、すでにハリウッドをはじめ、西洋圏の映画や小説で長く、広く、数多く試みられている。

 ゆえに、キリスト教徒でない私のような人間が、単に聖書の史的な再構成をしても、海外の物語群の足元に遠く及ばないことが容易に想像できる。

 また、仮にそういった作品を書いたとしても、既存作品と比較する大人の読者の鑑賞に耐えない危険性が十分に考えられる。たとえサポートがあったとしても「専門新聞社の連載小説として求められるクオリティに達しないのでは?」としか思えない。


※理由 (2):「中高生でも読めるか」と考えた結果
 「ライトノベル」としての出版も視野に入れるとなると、中高生でも十分に読める作品が志向されるべきだろう。

 しかし、ユダヤ人やヨーロッパ人をはじめとする歴史上の聖人、信仰者などを出し、歴史的なエピソードを展開するという方向性は、世界史的な前提知識のない人たちに対して、教科書的な「重要性」や「背景」の理解を強いるため、敷居が高くなることは必然である。

 その点、「ファンタジー」なら、歴史の知識が不十分な人でもより抵抗感なく読める(かもしれない)だろうし、また、歴史のエッセンスを展開できると推測する。


※理由 (3):無宗教を是とする一般的日本人のメンタリティを考えた結果
 日本では、一般的に無宗教的なスタイルが是とされ、個人的な心情までも規定すると思われる。そのため、キリスト教の文脈そのままにキリスト教の要素を作品内で押し出してしまう性質の作品だと、キリスト教の内部以上の広がりをもつことは難しいのではないかと思える。


※理由 (4):現代・未来を舞台とし、「神的なもの」を表現する際、それらにまとわりつくオカルティズムの”オーラ”を回避することが困難であると予測するため
 以上、(1)~(3)を考慮した場合、「ファンタジー」のほかに、「現代や未来を舞台にした作品」(伝奇あるいはSF色の強い世界観で展開される”異能力もの”など)が選択肢になるように思われる。

 しかし、これについては先行作品において、無批判なままに、オカルティズムあるいは物質中心的な捉え方を良しとする諸概念が広く受容され、また、一般化されているように見える。

 現代や未来を舞台にしたエンタメ作品とする場合、「異能力」にまとわりつく文化的な諸概念が物語製作者にとって実際に便利なのは事実であるが、キリスト教の観点からは受け入れがたいものだろうと推察する。



 以上4つを挙げたが、私の無知ゆえに誤りも多々あろうし、上記のような懸念を吹き飛ばす魅力ある作品が現れる可能性は十分にあるだろう。

 しかし、私の足りぬ頭では、聖書で常に問われている「人は神とどう向き合うべきなのか」というテーマを中心として、聖書のエピソードを再構成した「ファンタジー」こそが取りうる唯一の選択肢となった。

 例えば、「神」を「世界」と読み替えて示せば、世俗的にも普遍的なテーマとなるだろう。
 人は否応なく世界=複数の他者と付き合わねばならないからだ(「あらゆる他者を越えた他者が神だ」というのは、哲学者がしそうな言い方ではあるが)。

 私はヘーゲルを独学中の、キリスト教徒とのかかわりが一切ない世俗的な不可知論者のため、神の信仰者は他者に当たる。

 今回、この企画にあたり、本来なら「作品の制限」と見なされうる信仰者の視点を、「作品を豊かにする他者の観点」として取り入れていく方向性を考えている。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

●ルアス(20歳):異教徒特等殺戮官

名門伯爵家の次男。

伯爵家を継ぐ兄に対抗意識があり、また、真面目で競争的な性格から、帝国の「悪しき教会」の神学校で神学理論を学び、志願して異教徒殺戮官となる。


「異教徒の殲滅」を「信仰と出世に役立つ合理的で一石二鳥の手段だ」と捉え、むしろ誇りに思っている。


20歳で異例の特等殺戮官となり、旧王国の異教徒殲滅の責を負い、幾多もの屍を築き上げる。


獲物を捉えたら放さない仕事ぶりから、”底なし沼”の異名を誇る。


この地でも、血で血を洗う自分の仕事に何ら疑問をもっていなかった。


死病を患うまでは……。

●ユダ(17歳):裏切り者の烙印を押された少女

帝国に両親を殺されて以来、高い魔力を見込まれて「悪しき教会」で育てられる。魔術師として虐殺の先兵とされるところを「勇者」を支持する人々に助け出され、やがて「勇者」の弟子として認められた。


しかし、悪の蔓延する世界で、「悪の責任は神にはない」と説く勇者に、やがて内心疑いをもつようになる。結果、隠匿すべき勇者の居場所をほんの出来心から意図せず異教徒殺戮官に漏らしてしまい、勇者の処刑につながった。


以後、帝国から「あるべき臣民の姿」と賞賛されるが、尊敬する勇者を裏切った罪に思い悩み、結果、勇者への謝意を示すために日々祈り続けた。しかし、それが「勇者信仰」として帝国に咎められることになる。

●ウーヌス(22歳):異教徒一等殺戮官

ルアスの3幹部の一人で、一等殺戮官かつ幼馴染としてルアスを支える。


ルアスとは幼なじみなのは、皇族の血筋を引く公爵家の三女であり、領地が隣同士だった関係のため。


家柄はルアスよりも高いが、ルアスに好意を抱き、同じ神学校へ進学するなど、彼とともに歩み続けてきた。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色