シハナ(Vo) レンカ(Ba) ウコク(Gt) バズ(Dr) カナエ(Pd)
文字数 1,115文字
それはあなたの人格をすべて表してた。14歳のあなたの全人格を。
あなたがいじめに遭っていたその中学校の体育館のステージからいじめの首謀者に扇動された男子どもが体育座りをしているフロアへいきなりダイブして、あなたは曲をオーダーした。
「バズ!ロックンロォォオール!」
って。
震災でかつてのバンド仲間を全員失ったバズがあの独特のハイハットのイントロを叩き始めると、通り魔に奥さんと娘さんを殺されてその復讐を果たしたウコクが轟音でギターをぶっ放して、高校を卒業して就職した工場での巻き込み事故で左手の小指を
レッド・ツェッペリンの、Rock and Roll
男子どもがあなたの服をビリビリ破り始めた時、帯同するプロデューサーの義務としてわたしはステージ袖からハイヒールで、カッ、カッ、とマーシャルのアンプに歩み寄ってヴォリュームのツマミを最大にひねった。
爆音に悶絶する男子ども。
ドサ回りのツアーで敢えて自らの母校(中学中退だけど)を選んでまだその学校で未だにいじめの地獄の中にいる子たちを救い尽くそうとしたあなたの精神は、同じくバンドのメンバーたちと、そして微力ながらわたしの手を添えて、成し遂げたんだったね。
なぜ世間から『いいね』を貰えないようなメンバーばかりを探し求めたのか。
わたしがまだいじめの真っただ中にいたあなたをスカウトした時の言葉どおりだよ。
「世界一のロックンロール・バンドを作る」
わたしが所属する弱小レーベル『Gun & Me』の社長がわたしに厳命したんだよ。
シハナ。あなたは世界最高のヴォーカルだった。
突き抜けた高いキーと、数オクターブを瞬時に行き来できる素晴らしい声帯と、そして何よりも、物心ついてからいじめに遭いながらも『ならぬかんにん』して生きてきたあなたのその全てが、あらゆる楽曲を歌い、人を誠実にさせたり、泣いてる子の背をさするように歌声を掛けたり、笑いたくても笑えない子に「笑いなよ」ってほほ笑んであげたり。
でも、あなたは死んだ。
最後の数万人のオーディエンスが集まるその平和のためのフェスのオープニング・アクトとして立ったあなたは、白のブラウスに受けた銃弾が胸を貫通して、血がバラみたいに柔らかな布に染みていって、あなたは崩れ落ちるのを堪えて静かにステージに膝を折り曲げて。
そして、ウコクの奏でるKnockin' on heaven's doorに葬送されて、居なくなってしまった。
世界一のロックンロールバンドになれたかどうかは分からないけれども。
もう一度あなたに遭いたいんだよ。