第3話 半覚醒

文字数 3,858文字

 夢のようなふわふわした感覚は目覚める予兆、体調が問題ない者なら起き上がり爽やかな気分になる事だろう。

『またタイミングを逃した…』

 私は今、タイミングを失ってしまった。

 意識覚醒がうまく合わないのか、起きようと強く願い身体は目覚め、意識が目覚めない、私自身何を言っているのか頭が痛くなっちゃう。

 あの出来事からどれだけ時間が経ったんだろ、身体の違和感は時々の半覚醒を繰り返す度に減っていくのは間違いないのに、肝心の身体が動かせない、最初は身体が熱かったり、痛かったり、夢の中まで干渉する辛さも今は殆ど感じないの…

 汗も時々拭いてもらっているみたいで、それこそ見知らぬ私を助けた後看病をし続ける理由が結びつかない、だからこそ、目覚めて感謝を伝えたいのに!!

 私はそんな気持ちを抱きながら、再び寝てしまったのだ。

『何だろ、確実に変、何度も起きるタイミングを逃してる理由が分からないや』

 記憶を、前世の記憶を得てから一度も目覚めない違和感と、それに関わらず夢という曖昧な感覚を強く感じるようになると、夢の中で起きているような言葉に出せない気持ち悪さ、それも夢から目覚める半覚醒を終えても夢の考えを失うことはない、続きを考えたり、新しく考えたり、様々な思考ができるのだ。

 初めは好都合と考えたけど、考える事も無くなるほど時間が経っている気分、前世で最後の一年見たり、読んだり、遊んだりと様々な事をしたよねって思い返して終わる。それを繰り返して、考える事も無くなったのだ。

 誰かに看病をしてもらい、時間感覚も曖昧なまま、目覚めの時が訪れた。

「ぅ…ぁ…」

『タイミング完璧かも!!』

 私は心の中で嬉しくなり、意識を戻した身体でゆっくり目を開いたのだ。

「ここは…」

 夢以外で視界に情報が入ってくる久しぶりな感覚を感じて、見える範囲を確認した。

 村での生活で見てきた木材とは違う、しっかりと色が付き、全て同じ品質を繋げた上質な天井、一瞬気にしなかったけど、白いカーテン、ふかふかのベッド、全て普通の品質とは異なる。

「おき…ないと…」

 私は身体に力を込めて、起きあがろうと思ったけど、動くように思えない、それほど重たく、力が入らない状態だ。

「何これ…」

 起き上がれない為、誰かが来るのを待つしかなかった私に予想を超えた問題が発生した。

 身体全体は止まった時を動かすように痛みを発しはじめて、初めはピリピリした程度が、数秒と経たない間に感じたことのない何が起きているのか理解もできない激痛を感じ始めた。

「あがっ!!がっ!!」

 心臓の鼓動に合わせてズキズキと痛み、目を見開き痛みに合わせて動かなかった身体は跳ね上がるように動き、言葉にならない声で口をパクパク動かすしか出来ないほどだ。

『何これ!助けて!私こんな痛み知らないよ!』

 心の中で泣き叫ぶ、声に出せない分を心の中で叫ばなければ痛みに耐えれず死んでしまうと思ったからだ。

 目を覚ました時は感じなかった痛み、激痛という表現は生易しく、全身は声に出せない分を汗として出しているのか、着ている服が肌にくっ付く嫌な感覚、気にする余裕はない、全く無い、声を振り絞り、言葉にならないような悲痛の叫び、呼吸を行うタイミングを逃して咳き込み、余計に辛くなってしまった。

 運がいいのかも、全体で見れば運は悪い、それでもこの状態で咳き込むと吐き気を感じる。どれだけの時間が経過したのか分からないけど、何も食べてない為、胃液すら出ないのは運がいいと思う。いや、思わなければ私自身が壊れる。

「ど、どうしよ!戻ってきたら大変なことになってるよ!!とーさま!とーさま!!大変!大変だからすぐきてよ!!」

 痛みで気がつく余裕は無かったけど、誰か戻ってきたようで、私を見ると慌てるように声を上げ、誰かを呼ぶ高めの声、顔を見る事は出来ないけど、声を聞く限りは女の子だと思った。

 そんな余裕は本来ないけど、考えないと痛みに塗り潰されて消えるように感じる怖さ、なるべく他ごとを考えようと、意識を強めながら耐えた。

 その女の子が呼んだ人が勢いよく駆けつける。

 強い足音は急いでいる事を理解させ、渋めの声で「何が起きた!!」と言ったのだ。

「治癒の反動か…リディス!腕を押さえてくれ!下手に暴れられると筋肉が傷つく!!」
「は、はい、とーさま!!」

 呼ばれてきた渋い声の主を少女は「とーさま」と呼び、少女は「リディス」と呼ばれ、指示の通り近寄るとひんやり冷たい手で、私の腕を押さえつけた。

「お願い!暴れないで!!余計に痛くなるよ!お願い!!止まって!!」

 泣きたいのは私の方だけど、リディスは押さえつける腕にポタポタと涙を流しているようで、震える冷たい手は私の為に悲しんでいると分かったのだ。

「ごめ…痛くて…勝手に…」

 そう、私も好きでやっていない、痛みに身体が反射的な動きをしているの…

 私の口に布が当てられて、呼吸を繰り返すと、身体から力が抜けるようにスッと楽に、気分が落ち着き、軽く感じたのだ。

 反射的に動いていた身体も落ち着くように動きを止め、小さな呼吸に合わせて胸が動くのみだ。

「どうだ?少しは落ち着いたか?」

 私に渋い声で話しかけた「とーさま」は口元に当てられた布を離した事で、冷たい布に何か付いていたのだろう。引いた痛みに呼吸を落ち着けた。

「ぁ、ありがと…もう大丈夫…です…」
「受け答えできるようで良かった、リディスもう腕から手を離して構わんぞ」
「あっ!私ったらずっと抑えつけて…ご、ごめんなさい!!」
「大丈夫、抑えてくれてありがと…」

 私は介抱してくれた事に感謝を伝え、それに対してリディスはビクッと腕から手を離す。

「暫くは痛みも感じないと思うが、まだ暫くの間は時々身体が痛くなるだろう、リディスすまんが、汗を拭って服を着替えさせなさい、このままでは風邪を引いてしまう。それに汗で服が付くのは気持ち悪いだろうからな」
「はい!私に任せてください!そうと決まればとーさまは部屋から出ていってください」

 私の対応を話し合うと、リディスの顔をようやく見えた。

 薄い青髪、瞳は濃い青、長めの髪は手入れが行き届いているように見えた。

 ニコッと微笑み「身体動かせますか?」と私に優しく声をかけてくれた。

「ちょっと待ってね」

 私はそう言うと、腕にグッと力を込めて、お腹に力も込めるとゆっくり起き上がる。

「いっ!!いたい、まだ少し痛い…」
「ゆっくりでいいですよ、痛みが強くなるなら無理しなくていいですからね」

 身体をゆっくり動かした。

『優しい声…身体が軋むけど、安らかな気持ちになるよ…』

 あの布で痛みはだいぶ治ったようだ。

「汗を拭くので、ごめんなさい、服を脱がせますよ、痛かったら言ってくださいね」
「大丈夫と思う…少し恥ずかしいけどね…」
「今日まで何度も身体を拭いているから安心してください」

 リディスは私にそう告げて、何に対して安心なのかと痛みが引いた分頭は回り始める。今日まで看病をしてくれたことは間違いないようだけど、私が恥ずかしい気持ちに変わりはないのだ。

『あれ、私の身体ってこんな感じだっけ?』

 私はリディスに拭いてもらっていると、濡れた布が身体に触れる度にあの記憶、私が魔物に襲われた時の身体と何故か違うように感じてしまった。

『気のせいだよね、小さくなってるような感じはきっと栄養が不足しているからだね』

 自身を言い聞かすようにそんな事を頭の中で呟きながら、なるべく動かずに耐えるのだった。

「しっかり拭かないと風邪ひいてしまいますよ!女の子同士だから気にしない!」
「うっ…そう言われても気になるよ…」
「優しく拭きますね、傷も開いてなさそうで良かった。私と同じぐらいでこんな目に…何が起きて…ダメダメ!ごめんなさい、先に拭いてしまいますね!」
「ぅぅ…」

 リディスの言う通り、本来は恥ずかしがる必要は無いはずだけど、前世の記憶がある分どうしても恥ずかしく感じる。しかし、濡れた布で拭ってもらう事は不快な感じも拭われるように気分が良くなりそうだ。

 手慣れた手つきで拭き終えると、リディスは部屋の中に置いてある服を手に取り、私に「自分で服は着れますか?」と首を少し傾げて言ったのだ。

「多分無理かな、身体は起こせたけど、腕がまだ自由に動かないの」
「気にしないでください、それなら私が着せてあげますね!!」

 私は腕が動かないと伝えると、リディスは嬉しそうに明るい声で満面の笑みを浮かべながら、服を手に持ち近寄るのだ。

『何この子!何でそんなに嬉しそうなの!』

 今の私では着たことも見たこともないような可愛らしい服、着せた本人リディスはニコニコと気分が良いのか、嬉しそうに見える。

「この服高いよね…着た後だけど、私が着ても良かったのかな…」
「気にしないで下さい!私の服ですので、遠慮なく着てください!」
「どう言う意味…って、先にお礼言わなきゃ、私を助けてくれてありがとね」
「できる事をできる範囲でしただけです、それにとーさまが連れてきたので、私は大した事してませんよ」
「そうなんだね、えっと、さっき一緒にいた人だよね?」
「追い出したので暫くは戻ってこないですが、はい、私のとーさまです!とーさまも私と同じように気にしないでと言いますよ」
「ますますわからなくなってきたかも、助けてもらえたのはとても嬉しいけど、どうしてなんだろ…」
「私にはわかりませんが、先にお名前聞いてもいいです?あっ!私はリディスと言います!先に言うべきでしたね!」
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