セリフ詳細
「丞相にとっては天来の好事である。敬 うて聞かれよ。――呉の黄蓋 、字 は公覆 、すなわち三江の陣にあって、先鋒の大将をかね呉軍の軍粮総司 たり。この人、三代があいだ呉に仕え、忠節の功臣たること、世みな知る。――然るを、つい数日前、寸言、周都督に逆らえりとて、諸大将のまっただ中にていたく面罵せられたるのみか、すでに老齢の身に、百打 の刑杖を加えられ、皮肉裂け、血にまみれ、気は喪 うにいたる。諸人、面をそむけ、ひそかに都督の酷薄 をうらまぬはない。病床に苦吟しつつ、ひそかに一書を認め、それがしに託して、丞相に気脈を寄せらる。――もとより骨髄 に徹する恨みを、はらさんがためでござる。幸いにも、黄蓋は武具兵粮 を司 どる役目にあれば、丞相だに、諾 ! とご一言あれば、不日、呉陣を脱して、呉の兵糧武具など、及ぶかぎり舷に積載してお味方へ投じるでござろう」
青空文庫より、吉川英治、三国志をチャットノベル化
幾分、内容文章を変えています。