セリフ詳細

「丞相にとっては天来の好事である。(うやも)うて聞かれよ。――呉の黄蓋(こうがい)(あざな)公覆(こうふく)、すなわち三江の陣にあって、先鋒の大将をかね呉軍の軍粮総司(ぐんろうそうし)たり。この人、三代があいだ呉に仕え、忠節の功臣たること、世みな知る。――然るを、つい数日前、寸言、周都督に逆らえりとて、諸大将のまっただ中にていたく面罵せられたるのみか、すでに老齢の身に、百()の刑杖を加えられ、皮肉裂け、血にまみれ、気は(うしな)うにいたる。諸人、面をそむけ、ひそかに都督の酷薄(こくはく)をうらまぬはない。病床に苦吟しつつ、ひそかに一書を認め、それがしに託して、丞相に気脈を寄せらる。――もとより骨髄(こつずい)に徹する恨みを、はらさんがためでござる。幸いにも、黄蓋は武具兵粮(ひょうろう)(つかさ)どる役目にあれば、丞相だに、(だく)! とご一言あれば、不日、呉陣を脱して、呉の兵糧武具など、及ぶかぎり舷に積載してお味方へ投じるでござろう」

作品タイトル:三国志

エピソード名:第99話、苦肉の計

作者名:畑山  hatakeyama

126|歴史|完結|156話|1,238,935文字

三国志

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青空文庫より、吉川英治、三国志をチャットノベル化
幾分、内容文章を変えています。