「賤しい楽女のわたくし、お疑い遊ばすのも当り前でございますが、どうか、お胸の悩みを、打明けて下さいまし。……いいえ、それでは、逆しまでした。王允様のお胸を訊く前に、わたくしの本心から申さねばなりません。――私は常々、王允様のご恩を忘れたことはないのです。十八の年まで、実の親も及ばないほど愛して下さいました。歌吹音楽のほか、人なみの学問から女の諸芸、学び得ないことはなに一つありませんでした。――みんな、あなた様のお情けにちりばめられた身の宝です。……これを、このご恩を、どうしてお酬いしたらよいか、貂蝉は、この唇や涙だけでは、それを申すにも足りません」