セリフ詳細
「いや、北国の知人の話は、もっと詳しいものでしたが、では大略して、要をかいつまんで申しましょう。――その曹操は、銅雀台の贅 に飽かず、なおもう一つ大きな痴夢を抱いているというのです。それは呉の国外にまで聞えている喬家 の二女を銅雀台において、花の晨 、月の夕べ、そばにおいて眺めたいという野心です。聞説 、喬家の二名花とは、姉を大喬 といい、妹を小喬と呼ぶそうで、その傾国の美は、夙 にわれわれも耳にしているものです。――思うに、古来英雄の半面には、こうした痴気凡情の例も、ままあるのが慣いですから、提督には、人を派して、喬家の門へ黄金を積み、二女を求めて、曹操へお送りあれば、立ちどころに彼の攻撃は緩和され、衂 らずして国土の難を救うことができましょう。――これすなわち范蠡 が美姫西施 を送って強猛な夫差 を亡ぼしたのと同じ計になるではありませんか」
青空文庫より、吉川英治、三国志をチャットノベル化
幾分、内容文章を変えています。