セリフ詳細

「いや、北国の知人の話は、もっと詳しいものでしたが、では大略して、要をかいつまんで申しましょう。――その曹操は、銅雀台の(ぜい)に飽かず、なおもう一つ大きな痴夢を抱いているというのです。それは呉の国外にまで聞えている喬家(きょうけ)の二女を銅雀台において、花の(あした)、月の夕べ、そばにおいて眺めたいという野心です。聞説(きくならく)、喬家の二名花とは、姉を大喬(たいきょう)といい、妹を小喬と呼ぶそうで、その傾国の美は、(つと)にわれわれも耳にしているものです。――思うに、古来英雄の半面には、こうした痴気凡情の例も、ままあるのが慣いですから、提督には、人を派して、喬家の門へ黄金を積み、二女を求めて、曹操へお送りあれば、立ちどころに彼の攻撃は緩和され、(ちぬ)らずして国土の難を救うことができましょう。――これすなわち范蠡(はんれい)が美姫西施(せいし)を送って強猛な夫差(ふさ)を亡ぼしたのと同じ計になるではありませんか」

作品タイトル:三国志

エピソード名:第95話、周瑜の決断

作者名:畑山  hatakeyama

126|歴史|完結|156話|1,238,935文字

三国志

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青空文庫より、吉川英治、三国志をチャットノベル化
幾分、内容文章を変えています。