「なぜ馬超が、そんな苦しい立場に陥っているかというに、実は、それもかくいう臣孔明が、手をまわして、そのたねを蒔いておいたものでした。元来、漢中の張魯という野心家は、どうかして漢寧王の称号を得たいと常々から希っておるので、その腹心の楊松へ私から密書をやっておきました。楊松はまた慾に目のない男ですから、多額な金品をあわせ賄賂うてくれたことも申すまでもありません。――そこで私の書中には――わが主劉備が蜀を収めたら、天子に奏して、きっと張魯をして、漢寧王に封ずるように運動しよう。このことは確約してもよろしい。……しかしそのかわりに、馬超を葭萌関から呼び返し給え。そう申しつかわしたわけです」