セリフ詳細

「おそれながら、大王には、ちとご推測を過っておられるようです。関羽は世の常の武将ではありません。すでに天下に彼の名が轟いてから三十年、未だいちどの不覚を聞かず、不信の沙汰なく、無謀のうわさを知りません。いま、その武勇にかけて、関羽と対立し、よく互角の勝負をする者は、おそらく驍勇無比(ぎょうゆうむひ)なる龐徳をおいては、ほかに人物はおりますまい。この点は大王のお眼鑑(めがね)に、私も心服しておるものでございます。さりながらそれは武勇だけの問題です。智略は如何となると、これはとうてい、関羽の巧者には及ばないことあきらかです。――それを龐徳が悲痛なる決意と血気にまかせて、あのようにして出て行ったのは、実に、敵を知らざるもの、暴虎の勇、私には、危なくて見ていられませんでした。――(ことわざ)にも、両剛闘えば一(しょう)ありで、魏にとっては、又なき大将を、むざむざ死なせにやるようなことは、国家のため、決して良計とは思われません。いまのうちに、少し彼の気持を、弱めたほうが、将来の計かと思われますが……」

作品タイトル:三国志

エピソード名:第140話、龐徳の覚悟

作者名:畑山  hatakeyama

126|歴史|完結|156話|1,238,935文字

三国志

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青空文庫より、吉川英治、三国志をチャットノベル化
幾分、内容文章を変えています。