セリフ詳細

「民に、恩を知らしめるは、政治の要諦であるが、恩に()れるときは、民心が慢じてくる。民に慢心放縦(ほうじゅう)の癖がついた時、これを正そうとして法令をにわかにすれば、弾圧を感じ、苛酷を(そし)り、上意下意、相もつれてやまず、すなわち相剋(そうこく)して国はみだれだす。――いま戦乱のあと、蜀の民は、生色をとりもどし、業についたばかりで、その更生の立ち際に、峻厳な法律を立てるのは、仁者の(まつりごと)でないようであるが、事実は反対であろう。すなわち、今ならば、民の心は、どんな規律に服しても、安心して生業を楽しめれば有難いという自覚を持っているし、前の劉璋時代とちがって賞罰の制度が明らかになったのを知れば、国家に威厳が加わって来たものとして、むしろ安泰感を盛んにする。これ、民が恩を知るというものである。――家に慈母があっても、厳父なく、家の衰えみだれるを見る子は悲しむ。家に厳父あって、慈母は陰にひそみ、わがままや放埓(ほうらつ)ができなくとも、家訓よく行われ、家栄えるときは、その子らみな楽しむ。……一国の政法も、一家の家訓も、まず似たようなものではあるまいか」

作品タイトル:三国志

エピソード名:第129話、蜀

作者名:畑山  hatakeyama

126|歴史|完結|156話|1,238,935文字

三国志

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青空文庫より、吉川英治、三国志をチャットノベル化
幾分、内容文章を変えています。