「敵の奇変を見ず、ただ形を見れば、そう思うのはむりもない。蜀の劉備ともある者が目に見えるだけの布陣を以て、身を呉の陣前にさらすわけはない。――浅慮に彼の罠へ士卒を投じるの愚をなすな。幸いなるかな、ときは今、大夏のこの炎天。われ出でず戦わず、ひたすら陣を守って日を移しておるならば、彼は、曠野の烈日に、日々気力をついやし、水に渇し、ついには陣を引いて山林の陰へ移るであろう。そのときに至れば、かならず陸遜は号令一下、諸将の奮迅をうながすであろう。将軍、これも呉国のためだ。乞う、涼風を懐中に入れて、敵の盲動と挑戦を、ただ笑って見物して居給え」